SHARE:

西アフリカで軍事クーデターが多発する理由、外部勢力の介入も

西アフリカでクーデターが多発している根本的要因は単一ではなく、治安の崩壊、慢性的な統治不全と経済的脆弱性、軍の政治的台頭、外部勢力の地政学的介入、そして社会・環境的圧力が複合的に作用していることにある。
2020年9月22日/マリ、首都バマコで行われた駐仏軍に抗議するデモ(Getty Images/EPA通信)

以下では、西アフリカで近年クーデターが相次いでいる主要な理由を整理し、背景・構造的要因・外部要因・帰結と課題を提示した上で結論を述べる。

1. 概観

2020年以降、マリ、ブルキナファソ、ギニア、ニジェールなどで軍事クーデターが相次ぎ、地域の政治的不安定化が顕著になっている。クーデターを主導した軍は治安悪化や腐敗、統治能力の欠如を正当化理由として挙げることが多いが、背景には複合的かつ長年蓄積した構造的要因がある。

2. 主な原因・要因

2.1 安全保障の崩壊(イスラム過激派・武装集団の拡大)

サヘル地域を中心にイスラム過激派や武装勢力が勢力を拡大し、政府が治安を確保できない「安全の空白(security vacuum)」が生まれた。住民の生命・財産が脅かされる中で、軍が「秩序回復」を名目に介入する動機が高まった。過激勢力の影響力拡大は諸国での暴力・占領を通じて国家の基盤を蝕み、クーデター誘因となっている。

2.2 統治不全と汚職、経済的脆弱性

民主的に選ばれた政府でも汚職や経済停滞、公共サービスの不備が常態化し、特に失業や生活困窮が若年層に深刻である。こうした不満が政治的不信を生み、民主主義の正統性が損なわれると、軍が「改革の担い手」として支持を集めやすくなる。世論調査では民主主義支持の低下が確認され、国民の一部がクーデターを歓迎する傾向が見られる。

2.3 弱い国家制度と脆弱な民主制度

選挙プロセスの脆弱性、チェック・アンド・バランスの不備、長期政権化(任期延長や二期超過)などが、憲法的解決より軍事介入を起こしやすい政治的文化をつくる。司法・議会の独立性が弱く、政権交代メカニズムが信頼されない場合、非憲法的手段が「最後の打開策」に見える。

2.4 軍の政治化と内部ダイナミクス

軍は治安権限を持つという点で政治的影響力を持ち、内部での不満(待遇、指揮系統、利権配分)が高まるとクーデターの機会が増える。さらに一部では軍上層部と民政の癒着や軍人の政治的野心が重なり、政権奪取の動機となる。

2.5 外交・地政学的影響(旧宗主国の影響力低下と新勢力の台頭)

フランスをはじめとする旧支配国の安全支援や介入が相対的に後退し、一方でロシアの傭兵組織や新興勢力が介入する事例が出ている。外部勢力の介入は短期的な軍事的手段や資源配分を変え、国内の軍と外部アクター間の利害調整がクーデターの火種になる場合がある。特にロシアの民間軍事会社ワグネルの介入は国内軍内に亀裂や不満を生じさせる報告がある。

3. 社会・環境的要因

土地資源争い、干ばつや気候変動による生計の不安定化、都市化と農村の格差などが被害者層を生み出し、武装組織への支持や国への信頼喪失を助長する。これらは長期的にガバナンスの危機を深め、暴力的変化を受け入れやすい環境を作る。

4. 地域的制度・国際的対応の限界

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)やアフリカ連合(AU)はクーデターに対して制裁や外交圧力を加えるが、制裁の効果は限定的で、軍事政権が外部の圧力を受け流したり別のパートナーを得ることでバイパスされる例がある。地域機構の抑止力そのものが試されており、予防的なガバナンス支援や危機対応能力の強化が必要である。

5. 帰結と長期的リスク

クーデターは短期的に政治的安定や一部治安の改善をもたらす場合があるが、中長期的には国際的孤立、経済制裁、投資減少、人道状況の悪化を招く。さらに治安悪化が継続すれば反乱の連鎖や隣国への波及、テロ組織の勢力拡大を許すリスクがある。国民生活と地域の発展に対するコストは大きい。

6. 対応の方向性(課題)

  1. 治安回復と統合的カウンターインサージェンシー:過激派対策は軍事一辺倒ではなく、地域コミュニティとの協働、法の支配、軍の統制強化を組み合わせる必要がある。

  2. ガバナンス強化と腐敗対策:透明性向上、司法の独立、選挙制度の信頼回復が不可欠で、国民の信頼回復がクーデター抑止に直結する。

  3. 経済・社会政策の充実:若年失業対策や地方開発、気候変動緩和など構造的問題への長期投資が必要である。

  4. 地域協力と国際支援の再設計:ECOWASやAUの能力強化、外部支援国間の調整(軍事支援と並行した政治改革支援)を再設計する。

  5. 外部勢力の透明化と管理:外国の民間軍事会社や新たな外部パートナーの活動を監視し、国家主権と軍の統制を保つ仕組みを構築する必要がある。

7. 結論

西アフリカでクーデターが多発している根本的要因は単一ではなく、治安の崩壊、慢性的な統治不全と経済的脆弱性、軍の政治的台頭、外部勢力の地政学的介入、そして社会・環境的圧力が複合的に作用していることにある。

これらは相互に強化し合い、クーデターを「症状」とする政治的危機の連鎖を生んでいる。したがって再発防止には短期的な軍事対応だけでなく、中長期の統治改革、経済再建、地域協調、外部アクターの責任ある関与という多層的アプローチが必要である。

現状を放置すれば、国家の脆弱化と地域的な不安定化はさらに深刻化し、国民生活と地域秩序に対する代償は大きくなる。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします