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米国とアラブ3ヵ国、スーダン和平のロードマップ提示

スーダン内戦は軍内部の権力闘争と民政移行の失敗から生じた大規模な武力衝突である。
スーダン、首都ハルツーム、軍事政権に抗議するデモ(Getty Images)

米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトが12日、アフリカ北東部・スーダンの内戦終結に向けたロードマップを提示した。

4カ国の外相は共同声明で、3ヵ月間の人道的停戦とそれに続く恒久停戦に向けた和平交渉を開始するよう紛争当事者に求めた。

また4カ国は紛争終結に向けたロードマップを提示。人道的停戦後の恒久停戦と、文民主導の統治体制確立に向けた9カ月の移行プロセスを示した。

軍事政権と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」はコメントを出していない。

UAEは軍政からRSF支援で何度も非難を浴びている。UAEはこの主張を否定している。

サウジとエジプトは小規模ながら、軍政を支援している。

軍政とRSFは23年4月からハルツームなどの支配権を争っている。

この内戦は世界最悪の人道危機に発展。人口の半数以上にあたる約2500万人が飢餓に直面し、数万人が死亡、1400万人以上が避難を余儀なくされ、うち約500万人が周辺国に逃れたと推定されている。

激戦が続くダルフール地方では複数の地域で餓死者が出ているという情報もある。被害の全容は明らかになっておらず、調査が進む目途も立っていない。

国連は23年4月~24年6月の間にハルツームだけで2万6000人以上が死亡。さらに数千人が病気や栄養失調などで死亡したと推定している。

正確な死傷者数は明らかになっていないが、昨年公表されたデータによると、開戦から14カ月間でハルツームだけで6万1000人が死亡した可能性がある。

RSFのダガロ(Mohammed Hamdan Dagalo)司令官は先月末、軍政に対抗するもうひとつの政府「スーダン建国同盟指導評議会(TASIS)」の最高指導者に就任した。

スーダン内戦(2023年~)の経緯と背景

2023年4月15日、ハルツームや各地でスーダン軍(SAF)とRSFの間で大規模な武力衝突が始まった。これが内戦の発端であり、以後現在まで深刻な人道危機を引き起こしている。

この紛争の背景には長年の軍政と民主化の失敗、軍内部の権力闘争、そして資源や部族をめぐる対立が複雑に絡んでいる。

スーダンは2019年に30年間独裁を続けたバシル政権が民衆蜂起によって崩壊し、軍と民間勢力が共同で「移行政権」を担うはずだった。しかし軍部は権力を手放さず、2021年には軍のクーデターで民政移管の進展が阻まれた。その後、国際社会の圧力や国内の要求により再び民政移行の枠組みが議論されたが、その過程で軍内部に潜在的な亀裂が表面化することとなる。

とりわけ、軍のトップで事実上の国家元首であるブルハン将軍と、RSFの指導者で副議長を務めていたダガロ氏の間には強い不信があった。RSFはもともとダルフール紛争で悪名高い民兵「ジャンジャウィード」を起源とする部隊であり、バシル政権下で国軍に準じる勢力として拡大してきた。バシル失脚後もRSFは独自の経済基盤や軍事力を保持し、軍に対抗しうる存在となっていた。

民政移行の一環としてRSFを正規軍に編入する計画が進められたが、編入の時期や指揮系統をめぐり対立が激化した。ブルハン氏は2年以内の統合を主張したのに対し、ダガロ氏は10年の移行期間を求めたとされる。この権力闘争が最終的に武力衝突へと発展した。


戦闘の展開

2023年4月15日、ハルツームで銃撃や爆発が相次ぎ、軍とRSFの衝突が始まった。RSFは大統領府や空港、テレビ局など国家中枢を急襲し、短期間で首都の広範囲を制圧した。一方で軍は空軍力を用いてRSF拠点を空爆し、長期戦の構えを取った。この戦闘はすぐに首都のみならずダルフール地方や北コルドファン州など全国各地に拡大した。

都市部では砲撃や空爆が繰り返され、病院や学校が破壊され、民間人の犠牲が急増した。国連によると、2023年末までに1万人以上が死亡し、数百万人が国内避難民となった。また隣国チャド、南スーダン、エジプトなどへ逃れる難民も増加し、地域全体の安定を揺るがしている。

ダルフール地方の被害は特に深刻で、RSFおよびその同盟民兵が住民に対して民族浄化的な暴力を加えていると報告されている。ここではアラブ系民兵と非アラブ系住民の対立が再燃し、20年前のダルフール紛争の惨劇が繰り返されているとの懸念が強い。


国際社会の反応

国際社会は即時停戦と民政移管を求めているが、両者の対立は妥協点を見いだせず、停戦合意は何度も破られてきた。米国やサウジが仲介に乗り出し、エジプトやアフリカ連合も調停を試みたが、戦闘は収束していない。

また、RSFが金鉱山を掌握し、ドバイを通じて資金を得ているとされ、外部の資金源が戦争を長引かせているとの指摘もある。さらに、エジプトは軍を支援し、アラブ首長国連邦(UAE)はRSFとつながりがあると報じられ、周辺諸国の代理戦争的な側面も浮上している。


人道危機と問題点

戦闘により首都ハルツームは電力・水道・医療が崩壊状態となり、市民生活は極限の困難に直面している。医療施設の7割以上が閉鎖や機能停止に追い込まれ、食料や薬品の不足も深刻だ。国連世界食糧計画(WFP)は数百万人が飢餓の危機にあると警告している。

また、武装勢力による略奪や性暴力の被害が報告され、特に女性や子どもへの影響は甚大である。子どもの強制徴用も増えつつあり、国際人権団体は「国家崩壊に近い状況」と表現している。


今後の展望

2023年の発端から2年以上が経過しても戦闘は収束せず、事実上の内戦状態が続いている。スーダンはもともと経済危機と国土の広さゆえ統治が困難な国家であり、長期的な分裂やソマリア化の危険性も指摘されている。

仮に軍とRSFの一方が勝利しても、武装集団や地域勢力の対立は残り、安定化は容易ではない。民政移行の道筋も不透明であり、民主化を求めてきた市民社会は深刻な弾圧にさらされている。

国際社会が調停を続けても、双方が軍事的解決を優先する限り和平は遠く、今後も長期にわたる人道危機が続く可能性が高い。特に隣国への難民流出は地域安全保障の重大な脅威となり、アフリカ北東部全体を不安定化させる要因となっている。


まとめ

スーダン内戦は軍内部の権力闘争と民政移行の失敗から生じた大規模な武力衝突である。軍とRSFの対立は国家機能を麻痺させ、住民に甚大な被害をもたらしている。民族対立や外部勢力の介入も絡み、単なる内政問題を超えた地域的・国際的危機となっている。解決には停戦と包括的な政治対話が不可欠だが、その実現は極めて困難であり、今後も深刻な人道的惨状が続くと予測される。

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