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マリ軍政と欧米諸国の関係が悪化した経緯、ロシア依存強まる

マリはサヘル地域における地政学的争点の中心となり、欧米との関係は実質的な断絶状態に至っている。
2022年1月14日/マリ、首都バマコ、フランスの制裁に抗議するデモ(Getty Images/EPA通信)

アフリカ西部・マリの軍事政権と欧米諸国の関係悪化は、サヘル地域全体の治安不安、旧宗主国フランスとの歴史的関係、軍事介入への依存、そして軍事政権内部の政治的正当性の問題が複合的に絡み合うことで進行した。

とりわけ2010年代以降のイスラム武装勢力の拡大と、それに対するフランス主導の軍事作戦が生んだ摩擦が、その後の決定的な断裂の布石になった。

まず前史として、2012年のマリ北部危機がある。トゥアレグ系武装勢力MNLAとイスラム過激派が北部三州を制圧し、中央政府の統治が崩壊した。

この事態に対し、2013年にフランスが「セルヴァル作戦」を展開し、北部主要都市を奪還した。フランスは国際的な治安維持主体として一定の評価を受けたが、その後の反乱掃討や治安維持が長期化し、マリ国内で「フランスの介入は旧支配構造の延長ではないか」という反発が徐々に高まっていく。

フランスは同地域全体のイスラム武装勢力を対象とした「バルカン作戦」を展開し、治安任務を継続したが、治安状況はいっこうに改善せず、逆に武装勢力は中部・南部へ浸透を進めた。

マリ市民の間では「外国軍がいるのに状況が悪化するのはなぜか」という疑念が根強くなり、政治不信が拡大した。

こうした不満が爆発したのが2020年と2021年の二度にわたるクーデターである。まず2020年8月、抗議運動の高まりを背景に、アシミ・ゴイタ大佐ら軍部が大統領を追放し、移行政権が成立した。

欧州連合(EU)やECOWAS、西アフリカ諸国は速やかな民政復帰を求めたが、軍主導の暫定政府は遅延を繰り返したうえ、2021年5月には再び軍部が暫定大統領を排除し、ゴイタが実権を掌握した。この二度目のクーデターを受けて、欧米諸国は軍事政権への信頼を大きく損ね、制裁や支援停止を検討し始める。

関係が決定的に悪化したのは、軍事政権がフランスおよびEUの安全保障支援に疑念を向け始めたことだった。軍政はフランス軍の駐留が主権侵害につながると主張し、バルカン作戦の成果が乏しいことを批判した。

市民の間にも反仏感情が強まり、首都バマコではフランス大使館前での抗議デモが頻発した。これを背景に軍政は外交方針を転換し、フランスとの軍事協力を縮小する方向へ動いた。

その象徴となったのが、ロシアの民間軍事会社ワグネルとの協力関係である。2021年後半から、マリがワグネルを治安支援要員として受け入れる交渉を進めていることが報道されると、欧米諸国は強く反発した。

EUはワグネルを人権侵害の温床と位置づけ、マリ政権に対して協力中止を求めた。米国も、ロシアがワグネルを通じてサヘル地域に地政学的影響力を広げようとしているとの警告を強め、フランスと歩調を合わせて軍政を批判した。

しかし軍政は「ロシアは主権を尊重し、求める支援を提供してくれる」と主張し、西側からの圧力を退けた。軍政にとってワグネルとの提携は、対フランス交渉での対抗軸であると同時に、軍政の正当性を支える治安改善策として利用可能な選択肢だった。

2022年に入ると、欧米との関係は一段と悪化した。フランス軍はマリ側の非協力を理由に撤退を決定し、同年中にほぼすべての部隊を引き揚げた。EUの軍事訓練ミッション(EUTM)も、マリ軍がロシア側の影響を受けていることや人権侵害疑惑を理由に活動を縮小し、実質的に凍結された。

マリ軍とワグネルの合同作戦で民間人犠牲が増加しているとの国連報告が出たことも、欧米諸国の批判を強めた。

さらに、軍政は民政移管のスケジュールを繰り返し変更し、欧米側の不信を深めた。ECOWASの仲介案を拒否し、選挙実施を先延ばししたことに対し、欧米諸国は援助の一部停止やビザ制限などの措置をとった。

こうした対立の激化は、軍政にとって「外圧への抵抗」を国内支持の確保に利用する政治戦略と結びついた。反欧米・親ロシアというナラティブが軍政支持派の間で広まり、軍部はこれを政権固めに活用した。

2023年には、マリ政権が国連平和維持活動(MINUSMA)を「治安悪化を招いた」と非難し、全面撤退を要求するという事態に発展した。

国連が調査を進めていた民間人虐殺疑惑を軍政が「不当な干渉」とみなし、国際社会との対立を深めたことが背景にあった。

MINUSMA部隊の退場は、欧米の軍事的関与がマリからほぼ消滅することを意味し、軍政は治安政策をロシアとの協力に一層依存するようになった。

総じて、マリ軍政と欧米諸国の関係悪化は、①フランス主導の対テロ作戦の長期化と成果不足、②国内の反仏・反欧米感情の上昇、③軍政の正当性確保のための対外強硬姿勢、④ロシア(ワグネル)との新たな安全保障パートナーシップの形成、⑤民政移管遅延と国際社会からの信頼喪失、という複数の要因が互いに強化し合うことで進行した。

軍政は欧米からの批判を「内政干渉」と捉え、ロシアとの協力を主権擁護の象徴として打ち出した。一方、欧米諸国は人権侵害疑惑やロシア勢力の拡大を懸念して支援を縮小し、結果として双方の溝は埋め難いものとなった。こうした文脈の中で、マリはサヘル地域における地政学的争点の中心となり、欧米との関係は実質的な断絶状態に至っている。

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