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エチオピア干ばつ、高級香水の原料「ミルラの木」が危機に直面


ミルラの木(没薬樹)はエチオピアやソマリアなどの乾燥地帯に自生するカンラン科の低木。樹皮に傷をつけると赤褐色でスモーキーな甘い香りがする樹脂(没薬/ミルラ)を分泌する。
2026年1月8日/アフリカ東部・エチオピアの砂漠地帯(AP通信)

アフリカ東部・エチオピアで高級香水の原料として知られる「ミルラの木(没薬樹)」が深刻な干ばつにより危機に瀕している。気候変動の影響とみられる歴史的な雨不足が続き、地域経済と住民の生活基盤の双方に影響を及ぼしている。

ミルラは古代エジプト時代から宗教儀式や医療、美容に利用されてきた樹脂であり、現在も香水産業において重要な原料である。エチオピアはその主要な産地の一つであり、採取された樹脂は国際市場を経て、高級ブランドの香水に使用されている。しかし近年、同国では降雨量の減少が続き、かつて密集していたミルラの木が衰退しつつある。

現地では水不足に加え、餌を求める家畜による食害も深刻である。若木は芽を食べられたり、踏み荒らされたりして成長できず、世代交代が進まない状況にある。成木は比較的健全であるものの、雨不足の影響で樹脂の分泌量が減少し、生産量全体の低下が懸念されている。

こうした環境変化はミルラに依存する住民の生活を直撃している。地域住民の多くが牧畜や農業と並び、あるいはそれに代わる収入源として樹脂採取に従事しているものの、収穫量の減少により収入が不安定化している。さらに、採取者が得る収益は極めて低く、1キログラムあたり数ドル程度にとどまる。一方で、ミルラを原料とする香水は1本数百ドルで販売されており、流通過程における利益配分の偏りも問題視されている。

この状況を受け、研究者や国際団体が現地を訪れ、持続可能な供給体制の構築や公正な取引の実現に向けた調査を進めている。従来、現地では木を傷つけず自然に滲出した樹脂を採取する伝統的手法が守られ、これが樹木の保全に寄与してきた。しかし干ばつが長期化すれば、こうした持続的な慣行だけでは資源の維持が難しくなる可能性がある。

住民の生活環境も厳しさを増している。水源は枯渇し、多くの人々が遠方まで水を運ぶ日々を送っている。家畜を連れて数百キロ移動する牧畜民もおり、地域社会全体が水不足に直面している。

ミルラは単なる商品ではなく、宗教や文化とも深く結びついた存在である。それが失われることは、経済的損失にとどまらず、地域の伝統や生活様式の喪失にもつながりかねない。気候変動の進行が続く中で、環境保全と公正な市場構築をいかに両立させるかが問われている。

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