ソマリアの海賊が活動活発化、新たなシージャック事件も
ソマリア沖の海賊は単なる犯罪集団ではなく、国家崩壊と国際社会の無関心が生み出した「現代の海の無法者」である。
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アフリカ東部・ソマリア沖を航行していたマルタ船籍のタンカーが今週、海賊にシージャックされた。
海賊は6日、インドから南アフリカのダーバンへガソリンを輸送中であった「ヘラス・アフロディーテ号」を襲撃した。
EUの海軍部隊アスピデスは7日、乗組員24人を救出したと発表。海賊は逃走したとみらえる。
ソマリア沖で活動する海賊は、21世紀初頭から国際社会に深刻な脅威を与えてきた。彼らはアデン湾やインド洋西部の航路を中心に、商船や漁船を襲撃して身代金を要求する行為を行ってきた。
これらの海域はスエズ運河を経由してヨーロッパ・アジア間を結ぶ主要な国際海上交通路であり、世界の物流にとって極めて重要な場所である。そのため、ソマリア沖の海賊問題は単なる地域的犯罪にとどまらず、国際的な安全保障や貿易に関わる重大な課題として注目されてきた。
ソマリアは1991年に内戦が勃発して以降、長期間にわたって機能不全に陥り、国家としての統治機能を失っていた。これにより治安が悪化し、法の支配が及ばなくなった沿岸部では、地元の漁民や民兵組織が独自に武装化していった。
もともとソマリアの沿岸地域の住民の多くは漁業に従事していたが、内戦の混乱と国家崩壊によって経済基盤が破壊された。さらに、外国の漁船が違法にソマリア領海に侵入して漁業資源を乱獲し、加えて有害廃棄物を投棄するなどの行為が報告されていた。
これに対して一部の漁民たちは、自分たちの漁場を守るためと称して武装し、外国船を襲うようになった。こうして「自警団」的な性格を持っていた組織が、次第に金銭目的の海賊へと変質していったのである。
2000年代に入ると、ソマリア沖の海賊は組織的かつ計画的な犯罪集団へと進化した。彼らは高速ボートや衛星通信機器を用い、母船を利用して沖合数百キロメートルの地点まで出没するようになった。
海賊は武装して商船を襲撃し、乗組員を人質に取って船会社に身代金を要求する。要求額は数十万ドルから数百万ドルに及ぶこともあり、成功すれば莫大な利益を得られるため、内戦や貧困に苦しむ地域の若者たちにとって海賊行為は「ビジネス」として魅力的に映った。結果として、沿岸部の一部では海賊行為が地域経済を支える産業のような形にまで発展した。
国際社会はこの事態に強い危機感を抱き、2008年以降、各国が協力して対処に乗り出した。アメリカ、イギリス、日本、中国、インド、EU諸国などが軍艦を派遣し、アデン湾やインド洋西部での護衛活動を実施した。
国連安全保障理事会も複数の決議を採択し、海賊対策の国際的枠組みを整備した。特にEUの「アタランタ作戦」やNATOの「オーシャン・シールド作戦」は、商船護衛や海賊拠点の監視に大きな成果を上げた。また、日本も自衛隊を派遣し、ジブチに海外初の恒久的拠点を設置して活動を続けている。
こうした国際的な取り組みの結果、2010年代半ばには海賊による襲撃件数は大幅に減少した。最盛期の2009年には年間200件を超える襲撃が報告されていたが、2015年以降は数件にまで減少している。しかし、海賊行為が完全に根絶されたわけではない。
海賊行為の背景には、依然としてソマリア国内の貧困、政治的不安定、法制度の欠如といった構造的な問題が存在している。したがって、軍事的な取り締まりだけでは長期的な解決には至らないと考えられている。
ソマリア政府は国際社会の支援を受けながら国家再建を進めているが、依然として地方勢力やイスラム過激派組織アルシャバーブなどが支配する地域が多く、統治は不十分である。そのため、沿岸警備隊の能力も限られており、海賊が再び活動を活発化させる懸念が常に存在している。
また、最近ではソマリア沖だけでなく、ギニア湾などアフリカ西岸でも同様の海賊行為が増加しており、問題は地域的に拡散する傾向を見せている。
ソマリア沖の海賊問題は、単なる治安の問題ではなく、国家崩壊、貧困、国際的な不正行為、そしてグローバル経済の脆弱性が複雑に絡み合った現象である。
国際社会が海上警備を続けるだけでなく、ソマリア国内の政治的安定化や経済発展、漁業の再生支援などを通じて、海賊行為に頼らない社会構造を築くことが求められている。もしこれらの根本的な課題が放置されれば、海賊行為は再び勢いを取り戻す可能性がある。
ソマリア沖の海賊は単なる犯罪集団ではなく、国家崩壊と国際社会の無関心が生み出した「現代の海の無法者」である。彼らの存在は、グローバル化した世界において、一国の不安定が世界全体の安全に波及することを示す象徴的な例であるといえる。
ソマリア沖では昨年、海賊によるシージャックが少なくとも7件報告されている。
