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ナイジェリアの電力系統で不具合、停電発生、運営機関が発表

ナイジェリアはアフリカ最大の人口と経済規模を持ちながら、慢性的な電力不足と不安定供給に悩まされ続けている。
アフリカ西部・ナイジェリアの送電鉄塔(Getty Images)

アフリカ西部・ナイジェリアの電力系統を管理するNICO(Nigerian Independent System Operator)は11日、火力発電所での事故をきっかけに大規模な停電が発生したと明らかにした。

それによると、停電は10日の午前10時過ぎに発生。NICOは首都アブジャを起点に近隣の水力発電所からの供給復旧を開始し、系統を立て直すことに成功したという。

停電のきっかけとなった火力発電所での事故の詳細は明らかになっておらず、電力会社が調査している。一部の地元メディアは発電所内にある送電線で不具合が起きたと伝えているが、詳細は不明だ。

NISOは同国の電力系統の安定的運営と市場管理を担う組織である。発電・送電・配電を分離する電力部門改革の一環として設立され、送電網の運用、需給調整、卸電力市場の監督などを行う。国家送電会社(TCN)から切り離され、独立性を高めることで透明性と効率性の向上を目指している。電力不足や停電が頻発するナイジェリアにおいて、NISOは電力市場の信頼性確保と持続的な供給体制構築に重要な役割を果たしている。

ナイジェリアはアフリカ最大の人口と経済規模を持ちながら、慢性的な電力不足と不安定供給に悩まされ続けている。電力供給の制約は産業発展や国民生活に大きな影響を与えており、経済成長のボトルネックとして長年問題視されてきた。

ナイジェリアの発電設備容量は約1万3000メガワット前後とされるが、実際に稼働可能なのは半分程度にとどまる。老朽化した火力発電所や送電網の脆弱性、燃料供給の不安定さ、維持管理の不足などが要因となり、供給能力が大幅に制約されている。結果として、安定的に国民に供給される電力量は需要をはるかに下回り、アブジャや商業都市ラゴスといった主要都市でさえ停電が日常的に発生する。多くの家庭や企業は自家発電機に依存し、これは電力コストの高騰や騒音・大気汚染の原因となっている。

電力資源に目を向けると、ナイジェリアは石油・天然ガスの埋蔵量が豊富であり、発電燃料としての潜在力は非常に大きい。しかし、ガスパイプラインの破損や盗難、武装勢力による攻撃などで燃料供給が途絶することが多く、発電所が稼働停止に追い込まれる事態が頻発している。水力発電も一部導入されているが、乾季と雨季の水量変動が激しく、安定供給には限界がある。再生可能エネルギーについては太陽光の潜在力が注目されているが、大規模導入はまだ初期段階にとどまっている。

制度面では、2005年に電力部門改革法が制定され、国営独占体制の見直しと民営化が進められた。発電、送電、配電の分離が進められ、発電事業は複数の民間企業に開放され、配電も地域ごとの民間会社に委託された。ただし送電は国営TCNが維持しており、最近ではその運用をNISOに委ね、透明性と効率性を高めようとする動きがある。しかし規制機関の監督能力が十分ではなく、料金回収率の低さや不正接続による損失が深刻な課題となっている。

また、電力料金の設定も大きな問題である。長年にわたり電力料金は政治的配慮で低く抑えられてきたが、その結果、配電会社の収益性は低く、送配電網への投資が滞った。近年は料金の引き上げやコスト反映型料金制度の導入が試みられているものの、国民の反発が強く、完全な実施には至っていない。貧困層にとって電力料金の上昇は大きな負担であり、社会的不安定を招きかねない。

さらに、電力不足は産業活動に深刻な打撃を与えている。製造業やサービス業は安定した電力供給を前提に成り立つが、停電が頻発するために発電機や燃料に大きなコストを割かざるを得ず、国際競争力の低下を招いている。中小企業や農村地域では電力へのアクセス自体が制限されており、経済格差の拡大にもつながっている。国際金融機関は電力セクターの改革と再生可能エネルギー導入支援を進めているが、現場では制度疲労や汚職が障害となり、改善のペースは遅い。

近年、ナイジェリア政府はエネルギー多角化と民間投資の呼び込みを目指し、再生可能エネルギーの普及やガス火力の安定稼働に取り組んでいる。特に太陽光発電は農村部の分散型電源として期待され、国際開発機関や民間企業のプロジェクトが進行している。また、国際石油会社と連携してガスインフラの近代化を進めることで、燃料供給の安定化を図ろうとしている。しかし、治安問題や制度的不確実性が投資の障壁となっており、改善の成果はまだ限定的である。

ナイジェリアの電力事情は「資源は豊富だが制度とインフラが脆弱」という矛盾を抱えている。潜在的にはアフリカ有数のエネルギー大国になり得るが、現実には慢性的な停電と高コストに苦しみ、国民生活と経済発展を阻害している。今後は制度改革の徹底、料金体系の見直し、再生可能エネルギーの普及、そして治安とガバナンスの改善が不可欠となる。ナイジェリアが電力供給の安定化に成功すれば、経済発展の潜在力は一気に引き出され、地域全体の成長を牽引する存在となる可能性が高い。

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