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ガーナにおける「違法金採掘」の現状、課題と今後の展望

ガーナにおける違法金採掘=galamsey (ガラメシー)は、鉱物資源豊富という地域の特性と、経済的・制度的・社会的な脆弱さが交錯した結果として発生・拡大してきた。
アフリカ西部・ガーナの金鉱山(ロイター通信)

アフリカ西部・ガーナにおいて、違法金採掘(当地で一般に「galamsey (ガラメシー)」と呼ばれる)が深刻化している。これは、正式な鉱山権や環境規制を無視して、主に小規模・非許可の金採掘が行われる現象である。以下では、背景・実態・原因・影響・対応という構成で整理する。


背景・定義

「galamsey (ガラメシー)」という語は、英語 “gather them and sell” の音写に由来し、本来は「(砂・石から)金を拾って売る」という意味を含んでいた。本来は手掘り・川辺の砂利採掘という伝統的な小規模鉱業を指していたが、近年では機械や化学薬品が関与し、規模・影響ともに拡大をみせており、実質的には「違法・非許可」の金採掘行為を指すことが多い。
ガーナはアフリカでも主要な金産出国の一つであり、金価格の上昇や鉱業投資の動向が、こうした違法採掘の拡大を助長している。


実態

採掘の手法・場所

galamsey (ガラメシー)は川床・河岸・森林地帯など比較的アクセスの良い場所で実施される。砂利を掘り、水洗・選別を行い、金を含む鉱物を取り出す。多くの場合、許可を受けていない小規模な採掘者(アーテザナル・マイナー)によって行われ、重機(掘削機、掻き出し装置)や化学薬品(例えば水銀・シアン化合物)を用いるケースもある。
採掘地域としては、ガーナ南部・中部の鉱床帯、例えばアシャンティ州、ウエスタン州、ミドルベルト地域などが多く報告されている。

規模・構造

違法採掘は、単なる個人活動というよりも、資金提供者・マネージャー・機械オペレーター・物流業者などを含む「組織化された」仕組みを持ち始めており、現地報告では「70%程度が政治家や資本家の裏付けを持つ」とされる。また、年間数十億米ドル規模の税収逃れや違法金流出を生んでいる。例えば、最新の報告では年間約23億米ドルが違法採掘・金の密輸・許可外活動によって失われているとされる。


原因

経済的要因

ガーナ南部・農村部では就業機会の不足、特に若年層を中心とした高失業率が背景にある。比較的少ない資本で参入可能な金採掘という「即金性」のある活動が、農業・漁業など伝統的な生業よりも魅力を持つ。また、世界的な金価格の上昇が、違法採掘に対するインセンティブを高めており、ガーナでもその影響が指摘されている。

規制・制度上の欠陥

ガーナには小規模鉱業の許可制度が存在する(たとえば1989 年の「小規模金鉱業法」、2006 年の鉱業法改正等)。しかし、許可取得には手続き・コスト・資本が必要であり、多くの採掘者が非合法・非許可のまま活動している。さらに、土地・鉱物資源・伝統的権利(例えば族長・族地所有)と国家許可制度との間に複雑な関係があり、現場では「誰が許可を出したのか」が曖昧なケースが多い。
加えて、法執行能力・監視体制・資源・政治的意志のいずれもが十分とは言えず、腐敗・癒着の報告もある。

社会構造・文化的要因

鉱業地帯には若年層や移住労働者、女性労働者も多く参入しており、生計手段として定着しかけている。こうした構造が、禁止・規制強化を難しくしている。


影響

環境への影響

最も顕著なのは、森林破壊・土壌劣化・水質汚染である。違法採掘ではしばしば大規模な伐採・掘削が行われ、土壌構造が破壊され、植生が回復不能な状態になるとされる。
水系においては、砂利を洗った水がそのまま河川に流入したり、採掘・選鉱過程で水銀・シアンなどの有害物質が放出されたりする。これが河川水質の変色、魚類の減少、飲用・農業用水の汚染を引き起こしている。
例えば、報道では「60%以上の水域がすでに水銀・重金属により汚染されている」というデータも紹介されている。
これらの環境劣化が、森林の炭素貯蔵能力の低下、気候変動への備え(レジリエンス)の弱化、土地の生産能力低下・生態系サービスの喪失を招いている。

農業・漁業・生計への影響

ガーナ農村部では、カカオ農業が主力産業のひとつだが、違法採掘が農地を荒廃させ、農業生産量が低下している。報告によると、カカオ生産地帯で農地が採掘によって破壊されたり、汚染されたりすることで生産が20%ほど縮小したという例もある。
漁業・水生生態系についても、水質汚染により魚の資源が減少し、漁民の収入が脅かされている。
また、採掘跡地に放置された巨大な掘り跡・水たまりが地域住民の生活を脅かし、蚊の繁殖・マラリア等の伝染病リスクも高まっている。

健康・社会への影響

採掘活動に携わる者自身、あるいはその近隣住民が水銀・シアン・重金属などへの長期曝露を受けるリスクが高い。ある調査では、妊婦の胎盤から水銀・ヒ素が検出された例も報告されている。
社会経済的には、違法採掘地域では治安悪化、暴力・組織犯罪の増加、恩恵を受ける者/被害を被る者の格差といった問題も指摘されている。
国家としても、年間数十億ドルの税収・資源収益を失っており、これが公共サービス・インフラ整備・開発の足かせとなっている。


対応・課題

政府・制度上の取り組み

ガーナ政府は違法採掘撲滅に向けて複数の対策を行っている。たとえば、違法採掘装置(重機)の押収、ライセンスの発行・撤回、小規模鉱業の規制強化などが報じられている。
しかし、実効性を欠くとの批判もあり、監視・取締り体制の弱さ、政治的癒着、資源の限界(人員・設備)などが課題とされている。
さらに、地域住民・伝統首長・地元コミュニティを巻き込んだ自警・監視活動も生まれている。例として、地方コミュニティが「自分たちの地域からgalamsey (ガラメシー)を追放する」という運動を起こしている地域もある。

課題と展望

一つ目の課題として、違法採掘を生業としている人々の転換支援が不十分である。採掘に依存せざるを得ないという経済構造を変えない限り、禁止だけでは根本解決には至らない。
二つ目として、土地・鉱物資源・伝統的権利・国家ライセンス制度のあいだのグレーゾーンが依然として残っており、透明性・説明責任の欠如が監督・執行を妨げている。
三つ目に、環境・社会・人権といった複合的な被害に対する修復・補償・長期的復興が遅れており、放置された採掘跡地のリハビリテーションが追いついていない。
最後に、国際的な金取引・供給チェーンにおいても、「違法金」が流入する可能性が指摘されており、輸出・取引の透明性、倫理的な鉱物取得(「コンフリクトミネラル」的視点)への対応も求められている。


まとめ

ガーナにおける違法金採掘=galamsey (ガラメシー)は、鉱物資源豊富という地域の特性と、経済的・制度的・社会的な脆弱さが交錯した結果として発生・拡大してきた。環境破壊・農漁への影響・公共財の損失・住民の健康被害といった多面的な被害が既に顕在化しており、国家・地方・国際レベルでの制度・実務・支援の再構築が求められている。
ただし、単に禁止・取り締まりを強めるだけでは、採掘を生業とせざるを得ない社会構造を変えなければ、地元住民の抵抗・地下経済の温存・再発のリスクが残る。したがって、代替的生業支援、土地・資源権の明確化、環境修復の長期計画、そして透明な金流通・取引制度の確立が鍵となる。

以上のように、ガーナにおける違法金採掘は、「資源の恵み」が「環境・社会の重荷」となってしまっている典型的な事例であり、持続可能な開発の観点からも見過ごせない課題である。

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