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大エチオピア・ルネサンスダム正式稼働、エジプトとの亀裂深まる中

この工事は2011年に着工。発電量は稼働中の2基のタービンの750メガワットから、最終的には5150メガワットまで増加する見込みだ。
大エチオピア・ルネサンスダム(Grand Ethiopian Renaissance Dam)

アフリカ東部・エチオピア政府は8日、アフリカ最大の巨大水力発電用ダム「大エチオピア・ルネサンスダム(GERD)」を正式に稼働させた。

このプロジェクトは数百万のエチオピア人にエネルギーを供給する一方、下流に位置するエジプトとの亀裂を深め、地域を不安定化させている。

アフリカ第2位の人口を抱えるエチオピアは、ナイル川支流に建設された総工費50億ドルのGERDを経済発展の野望の中核と位置付けている。

この工事は2011年に着工。発電量は稼働中の2基のタービンの750メガワットから、最終的には5150メガワットまで増加する見込みだ。

アビー(Abiy Ahmed)首相は8日、「政府はこのダムを使って国民の電力アクセスを改善すると同時に、余剰電力を周辺地域に輸出する」と強調した。

GERDはエチオピア北西部、青ナイル川上流に建設されたアフリカ最大級の水力発電ダムである。

総発電容量は5000メガワットを超える規模とされ、完成すればエチオピア国内の電力不足を解消し、周辺国へ電力を輸出することで外貨収入を得ることも可能となる。

このダムは2011年に着工され、エチオピア政府が国家的悲願として推進してきたものであり、国民からも強い支持を受けている。

特にエチオピアは長年、慢性的な電力不足や貧困に悩まされてきたため、このダムは経済成長と近代化を象徴する国家プロジェクトとなっている。

しかしGERDは、下流国との間で大きな摩擦を生んでいる。ナイル川はエジプトとスーダンにとって生命線とも言える水源であり、とりわけエジプトは国土のほとんどが砂漠で、農業や生活用水の約9割をナイルに依存している。

そのためエジプトは、エチオピアが貯水を急速に進めれば流量が減り、自国の農業や生活に壊滅的な影響が出ると強く懸念してきた。

スーダンもまた農業や水利用の観点から影響を受ける立場にあり、ダムの安全性や水管理の方法をめぐって警戒心を示してきた。

エチオピアは自国の開発権を主張し、ナイル川の利用を歴史的に独占してきたエジプトの姿勢を不公平だと批判している。

一方、エジプトは1929年と1959年のナイル水利用協定を根拠に強い権利を主張し、エチオピアに対して国際的拘束力のある合意を求めてきた。

交渉はアフリカ連合(AU)や米国、EUなどの仲介で繰り返されてきたが、依然として最終的な合意には至っていない。このためGERDをめぐる対立は軍事的緊張を伴う地域不安定要因となっている。

環境や技術面でも課題が残る。ダムの大規模貯水は下流の流量を一時的に大きく減少させる可能性があり、生態系や農業に悪影響を与える懸念がある。

また気候変動により降雨パターンが不安定化しているため、長期的な発電能力の予測は不確実である。さらに、巨大ダムゆえに構造的欠陥や洪水時の管理失敗が起きれば、下流地域に甚大な被害をもたらす危険性も指摘されている。

国内的には、GERDはエチオピア国民の誇りであり団結の象徴とされる一方で、建設資金や維持費の負担が重く、外貨不足や債務問題の一因ともなっている。またダム建設による住民移転や環境変化への補償が十分でないとの批判もある。

エチオピア国内の民族対立や政情不安が続く中で、この巨大プロジェクトの恩恵が全国的に公平に行き渡るのかという懸念も残っている。

GERDはエチオピアにとって電力供給と経済発展を切り開く国家的プロジェクトであると同時に、下流国にとっては生存に関わる脅威となっている。

ナイル川という国際河川をめぐる典型的な水資源紛争の事例であり、その解決には三国間の協調と国際的な水資源管理の枠組みが不可欠である。

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