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コンゴ北東部の河川で船舶事故相次ぐ、193人死亡、行方不明者多数

コンゴでこのような事故は珍しくなく、アクセスの問題で陸軍や警察による救助活動が行われないこともある。
2024年10月3日/コンゴ民主共和国、キブ湖、転覆したボート(AP通信)

コンゴ民主共和国・北西部の赤道州で船舶事故が2件発生し、少なくとも193人が死亡、数人が行方不明になっている。国営メディアが12日に報じた。

それによると、事故は同州内の河川で10日と11日に発生した。

1件目の事故は州郊外の河川で発生。少なくとも86人が死亡し、その大半が学生であった。

2件目は州中心部のコンゴ川で11日の夕方に発生。500人余りを乗せたフェリーが炎上・転覆し、209人が救助された。

AP通信は地元当局者の話しとして、「漁師やボランティアが107人の遺体を収容した」と伝えている。

出火原因は明らかになっていない。

国営メディアは数人が行方不明と報じているが、APの取材に応じた当局者は「100人以上が行方不明になったとみられ、死者数は増加する可能性が高い」と報じた。

両方の事故の救助・捜索活動が続いているかどうかも不明である。

コンゴでこのような事故は珍しくなく、アクセスの問題で陸軍や警察による救助活動が行われないこともある。特に武装勢力が支配する地域では事故や自然災害が発生しても救助活動はほとんど行われない。

赤道州の湖で6月に発生したボートの沈没事故では少なくとも30人が死亡した。

赤道州のコンゴ川では4月、フェリーが炎上・転覆し、少なくとも148人が死亡した。このフェリーには500人余りが乗っていたとみられ、約100人が自力で岸に泳ぎ着いた。

赤道州の別の河川で24年12月に発生したフェリー転覆事故では少なくとも38人が死亡、100人以上が行方不明のままである。

コンゴではボートの転覆や沈没事故が頻発しており、これは単なる不運や自然要因にとどまらず、社会経済的・制度的な背景が複雑に絡み合っている現象である。同国は広大な国土を持ち、道路網の整備が極めて不十分であるため、主要な交通手段として河川や湖を利用せざるを得ない事情がある。コンゴ川をはじめとする大河川や数多くの湖は、国民の移動や物流の生命線となっている。しかし、その利用が制度的に管理されず、技術的にも安全基準を欠いていることが事故多発の直接的原因となっている。

第一に、交通インフラの未整備が根本的な要因として挙げられる。コンゴは長年の紛争や政治的混乱、腐敗により道路網や鉄道網の整備が停滞してきた。国土の多くは舗装道路が存在せず、陸路移動が困難な地域が広範囲に及ぶ。このため、国民は必然的に河川交通に依存せざるを得ない状況に置かれている。だが河川交通は、陸上交通に比べて統制が弱く、国家による規制や監視が行き届かないまま利用されている。

第二に、船舶の老朽化と過積載の常態化が深刻な問題である。多くのボートは木造や簡易な鉄製の小型船で、耐久性が低い。エンジンも旧式で整備不足のまま運航されることが多い。加えて、利用者が多く運賃収入を優先するため、設計上の定員や積載量を大幅に超えた状態で航行することが常態化している。乗客は生活必需品や農産物、家畜などを持ち込み、重量は安全基準を大きく上回る。これにより船体のバランスが崩れやすく、わずかな波や悪天候で転覆する危険が増大している。

第三に、安全装備の欠如が事故を悲惨なものにしている。多くのボートには救命胴衣や救命ボートが備えられていない。さらに、乗員や乗客は水泳を習得していない場合が多く、転覆時には自力で生還することが難しい。事故が発生した際には、救助隊の出動も遅れがちで、捜索や救出が十分に行われない。そのため、事故が起きるたびに数十人から数百人単位で犠牲者が出る大惨事に発展することが少なくない。

第四に、気象条件と航行技術の問題も無視できない。コンゴ川は水量が多く流れも急であり、複雑な地形や暗礁が点在する。また、熱帯性気候特有の激しいスコールや嵐が発生しやすく、予測も困難である。船員の多くは十分な航行訓練を受けておらず、経験則に頼った操船を行っている。そのため、悪天候や急流に対応できずに事故に至るケースが後を絶たない。

さらに、国家の規制や監視の不十分さも事故多発の要因である。交通当局は存在しているが、腐敗や資金不足により有効な取り締まりを行えていない。違法に登録されていないボートが数多く運航し、検査や監督を受けることなく利用されている。政府が安全基準を定めても実際には守られず、罰則も形骸化している。汚職によって許可証や検査が形式的に発行され、安全性が軽視される悪循環が続いている。

また、社会経済的要因も背景にある。貧困層にとって河川ボートは唯一安価な交通手段であり、危険を承知で利用せざるを得ない。都市と農村を結ぶ物資輸送にも不可欠であるため、危険性が周知されても需要は減らない。むしろ人口増加と都市化に伴い利用者が増え、過積載がさらに深刻化している。利用者側も経済的に余裕がなく、救命具の購入や安全性の高い船を選択することが難しい。

国際社会もこの問題に注目しているが、根本的な改善には至っていない。国連やNGOは救命具の配布や啓発活動を行っているものの、全体規模からすれば微々たるものである。インフラ整備や制度改革が進まない限り、事故の根絶は難しい。政府の統治能力の低さと汚職体質が改善されない限り、輸送の安全性を確保する仕組みは構築できないだろう。

コンゴでボート事故が多発するのは、道路網の欠如による河川交通依存、船舶の老朽化と過積載、安全装備の不足、航行技術と気象条件の厳しさ、そして国家の規制不全と汚職といった要素が重なり合った結果である。これらは一朝一夕に解決できる問題ではなく、交通インフラ整備、制度改革、国民への啓発、国際支援といった包括的な対策が不可欠である。現状では、ボート事故は避けがたい社会問題となっており、犠牲者の増加が続いている。

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