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ベトナム・バクニン、工場誘致で急成長も新たな課題に直面

バクニンの例はグローバルな生産拠点再編の恩恵を受けつつも、次の成長戦略を見据えた政策運営と競争力強化が求められている現代の製造業都市の姿を象徴している。
2025年11月3日/ベトナム、バクニン省バクニンの通り(AP通信)

ベトナム・ハノイ近郊のバクニン省バクニンは、かつては平野や伝統的な民謡で知られる農村地域だったが、ここ数年でベトナム有数の工業・製造拠点へと急速に変貌した。街中には中国語や韓国語の看板が並び、地元の食堂には辛味の強い中華系料理が並ぶなど、国際色豊かな風景が広がっている。この変化は米中貿易摩擦を背景に中国から工場が移転してきたことによるものだ。

バクニンの工業化の端緒は2008年にさかのぼる。当時、韓国・サムスンが同市に初の携帯電話生産工場を建設し、ベトナムを自社最大の海外生産拠点に育て上げた。この投資を契機に、日本や韓国企業の進出が相次ぎ、バクニンはグローバルな製造ハブとしての地位を確立していった。

近年は中国企業の進出が顕著である。米国が中国製品に対する関税を引き上げたことを受け、企業が生産拠点を多国に分散させる「チャイナ・プラス・ワン」戦略の一環としてバクニンへの投資が増加した。中国・ベトナム両国の関係正常化後、両国間の経済協力は加速し、現地の電子部品供給網や熟練労働力を目当てに多くの中国企業が進出している。

しかし急成長の陰で、バクニンには新たな課題が浮上している。労働者不足や賃金上昇が深刻化し、現地で操業する企業の間では「労働者の確保が難しくなっている」との声が出ている。また、インフラ整備が生産拡大のスピードに追いついておらず、物流や交通ネットワークの脆弱さがボトルネックとなる場面もある。

ベトナム政府はこうした制約を克服し、次の成長段階に進むべく積極的な施策を打ち出している。2025年12月にハイテク製造業向け工業団地の拡張工事が着工し、電子機器や製薬、クリーンエネルギー関連産業の誘致が進められている。国全体でも道路や鉄道など基幹インフラの整備が進行中であり、ハノイと港湾都市ハイフォンを結ぶ鉄道計画などが進められている。

また、ベトナムは2030年代に向けて低付加価値の組立型産業から脱却し、付加価値の高い製造業への転換を目指している。2045年までに「アジアの四小龍(韓国、台湾、香港、シンガポール)」に匹敵する経済規模を達成するという国家目標を掲げ、機械や設備、自動化技術の導入促進、輸出先の多角化などを進めている。税制優遇措置や外国企業向けの支援策も強化し、製造業全体の競争力向上を図ってきた。

とはいえ、競争環境は厳しさを増している。インドネシアやフィリピンなどの東南アジア諸国も工場誘致に積極的であり、投資先としての選択肢が広がる中でベトナムは独自の魅力を高める必要がある。また、米国との貿易関係も依然として不確実性を抱えており、関税問題が経済に影を落とす可能性もある。

バクニンの例はグローバルな生産拠点再編の恩恵を受けつつも、次の成長戦略を見据えた政策運営と競争力強化が求められている現代の製造業都市の姿を象徴している。今後の発展には、労働市場の柔軟性向上やインフラ投資の加速、そしてより高度な産業エコシステムの構築が不可欠だ。

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