スリランカ議会、元大統領に与えられる特権を廃止
スリランカの大統領は任期満了後もさまざまな特権を享受できる制度が整備されている。
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インド洋の島国スリランカの議会(一院制、定数225)は10日、退任した大統領に与えられる「特権」を廃止する法案を圧倒的賛成多数で可決した。
これにより元大統領とその妻に対する住宅手当、年金、交通機関利用、事務所及び職員の公費支給が廃止される。
存命の元大統領は5人いる。
これは昨年就任した与党・人民解放戦線(NPP)のディサナヤケ(Anura Kumara Dissanayake)大統領の選挙公約のひとつであった。
ウィクラマシンハ(Ranil Wickremesinghe)前大統領は先月末、在任中に公金を不正に使用した疑いで逮捕された。
スリランカは3年前、返済期限を迎える対外債務約70億ドルの返済を停止し、デフォルトに陥った。当時の負債総額は830億ドル超。そのうち415億ドルが対外債務、421億ドルが国内債務であった。
この危機は全国規模の抗議デモに発展。大統領府や首相府が占領される事態となり、当時のラジャパクサ(Gotabaya Rajapaksa)大統領を辞任に追い込んだ。
ラジャパクサ氏の後任に選ばれたウィクラマシンハ氏は24年9月の大統領選でディサナヤケ氏に敗れた。
スリランカの大統領は任期満了後もさまざまな特権を享受できる制度が整備されている。これは、大統領職が国家の最高指導者であることを反映すると同時に、政治的安定や安全を確保する目的もある。
まず、退任後の元大統領には経済的な保障が与えられる。具体的には、公的年金が支給されるほか、在任中に享受していた待遇に準じた公用車や住居の提供が行われることが多い。この年金や生活補助は通常の公務員や国会議員よりも高額であり、元大統領としての威信を維持するための制度的措置となっている。
また、元大統領には国家による警護が付与される。スリランカは過去に内戦や政治的混乱を経験しており、退任後も報復や暗殺のリスクが存在する。そのため、専属の警護チームが常に警備にあたり、元大統領の安全を確保することが義務付けられている。この警護は、単なる特権というよりも、安全保障上の必要性に基づくものである。
外交・公務上の扱いも特権として位置づけられる。元大統領は国家行事や公式儀礼に招待されることが多く、国賓並みの礼遇を受ける場合もある。これにより、国内外で象徴的な存在としての地位を維持でき、政治的影響力を間接的に保つことが可能となる。加えて、元大統領は政界や与野党の意思決定に影響を及ぼす場合もあり、政治的な存在感が退任後も残る構造となっている。
しかし、こうした特権は必ずしも国民から支持されているわけではない。スリランカは近年、経済危機や物価高騰に直面しており、退任した大統領が高額な年金や手厚い待遇を受けることに批判が強まっている。特に、経済危機の責任を問われて国外に退避した元大統領に対しては、「国民生活が困窮している状況での優遇は不公平だ」という声が広がった。