シンガポール、マレーシア人麻薬密売人の死刑執行、今年11人目
シンガポールの死刑制度はその厳格さと適用範囲の広さから国際的に注目を集めてきた。
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シンガポールで25日、麻薬密売の罪で有罪が確定したマレーシア人男性(39歳)が絞首刑に処された。同国の今年の死刑執行数は11人となった。
現地メディアによると、男性の死刑は25日午後に執行されたという。
この男性は2011年に逮捕され、約45グラムのヘロインを密輸した罪で死刑判決を受けた。
刑は2022年に執行される予定であったが、弁護団が異議を申し立て、裁判所がこれを受理した。
裁判所は今年8月にこれを棄却した。
家族側の代理人を務めるマレーシア人弁護士によると、家族は25日早朝、予定されていた絞首刑が中止になったと通知を受けた。
しかし数時間後、当局はこの決定を覆し、刑が執行されると家族に再通知。2時間以内に遺体を引き取るよう求めたという。一時中止になった理由は明らかになっていない。
シンガポールの死刑制度はその厳格さと適用範囲の広さから国際的に注目を集めてきた。死刑は殺人、テロ行為、銃器の不法使用など重大犯罪に科されるが、特に議論を呼んでいるのは麻薬犯罪に対する厳罰である。同国の麻薬取締法は所持量が一定基準を超える場合には密輸や取引を行ったと推定し、原則として死刑を科す「推定規定」を採用している。例えばヘロイン、コカイン、メタンフェタミンなどでは数十グラム単位の所持で死刑対象となり得る。このため、シンガポールは「麻薬に対してゼロ容認」を掲げる国家として知られ、犯罪抑止力の高さを強調している。
制度の運用面では、かつては多くの犯罪で死刑が強制的に適用される「必須死刑制度」が採られていたが、2012年の法改正により一定の柔軟性が導入された。殺人や麻薬犯罪においても、被告が下級の運び屋に過ぎない場合や精神的障害が認められる場合など、裁判所が終身刑を選択できる余地が設けられた。しかし、実際には依然として死刑判決が多く下されており、毎年複数の執行が行われている。執行方法は絞首刑であり、刑務所内で厳重に非公開のもと実施される。
政府は死刑の存在を犯罪抑止のために不可欠と主張し、特に麻薬の脅威から社会を守る強力な手段であると説明している。シンガポールは地理的に東南アジアの麻薬生産地と消費市場の中継点となりやすく、もし厳罰を緩めれば麻薬組織が流入し治安が悪化すると警告している。そのため政府は「死刑があるからこそ街が安全で秩序が保たれている」との立場を崩していない。
一方で、国際社会や人権団体からは強い批判が寄せられている。アムネスティ・インターナショナルなどは麻薬関連犯罪に死刑を科すことは国際人権法に反すると主張し、推定規定による裁判の不公正さや不可逆性を問題視している。また、低所得層や外国人労働者が麻薬の運び屋として利用され、死刑に直面している点も懸念されている。実際、シンガポールで執行される死刑囚の中には、貧困から組織に関与した外国人が多いとされる。
さらに国内外の法律家や活動家は、死刑が必ずしも犯罪抑止につながらないと指摘している。統計的には死刑制度を維持する国と廃止した国の間で犯罪発生率に大きな差が見られない場合もあり、死刑の効果には疑問が呈されている。それでもシンガポール政府は「死刑がなければ治安が悪化する」というロジックを堅持しており、国際的な圧力にも屈しない姿勢を示している。