トランスジェンダー女性3人撃たれ死亡、警察が捜査 パキスタン
パキスタンにおけるトランスジェンダーの権利は南アジア諸国の中でも先進的な側面を持つ一方、社会的差別や経済的困難が依然として深刻である。
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パキスタンの最大都市カラチで銃を持った男たちがトランスジェンダーの女性3人を射殺し現場から逃走した。警察が22日、明らかにした。
それによると、事件はカラチ郊外の路上で21日に発生。3人全員が至近距離から撃たれ、その場で死亡が確認された。
地元テレビ局は情報筋の話しとして、「銃を持った4~5人の男が女性に向けて発砲し、徒歩で現場から逃走した」と伝えている。
シンド州政府はこの事件を非難し、警察が容疑者を追跡していると声明を出した。
地元の人権団体も非難声明を出し、「中央政府、軍、警察がトランスジェンダーへの嫌がらせや差別を黙認した結果である」と主張した。
現地メディアによると、LGBTQ+の権利拡充を訴える団体がカラチ市内でこの事件に抗議したという。
全国の複数の人権団体は22日、SNSへの投稿で、警察が容疑者を逮捕できなかった場合、全国規模の抗議デモを行うと警告した。
パキスタンにおけるトランスジェンダーの権利は南アジア諸国の中でも先進的な側面を持つ一方、社会的差別や経済的困難が依然として深刻である。パキスタンでは「ヒジャー」と呼ばれるトランスジェンダーコミュニティが長い歴史を持ち、伝統的には宗教行事や儀式、文化的な役割で社会に関わってきた。しかし、法律上や日常生活では長らく差別や排除に直面してきた。
権利面では、2009年に憲法裁判所が初めてトランスジェンダーを認知する判決を下し、性自認に基づく差別を禁止する方向性が示された。その後、2018年には「トランスジェンダー権利保護法」が成立し、トランスジェンダー個人の性自認を法的に認める権利、身分証明書や旅券における性別表示の変更権、教育や就労における差別禁止、公共施設の利用保障などが明文化された。この法律により、トランスジェンダーは行政的・法的に平等な権利を享受できることが理論上保証されるようになった。
しかし、現実には法律の運用や社会的受容には課題が残る。保守的な宗教観や伝統的価値観が根強く、家庭や職場、教育現場での差別や偏見が日常的に報告されている。また、多くのトランスジェンダーが教育や職業訓練の機会を得られず、貧困や社会的孤立に陥る傾向がある。そのため、路上パフォーマンスや性産業に従事せざるを得ないケースも少なくない。加えて、行政手続きや医療機関での差別、警察による嫌がらせなどが報告され、権利保障の実効性には地域差や制度運用上の問題がある。
国際的には、パキスタンのトランスジェンダー権利法はアジア地域でも先進的と評価される一方、国内では文化的・社会的受容を伴わなければ法律の効果は限定的であるとの指摘がある。教育機関や企業、政府機関による啓発活動や支援プログラムの整備が不可欠であり、社会全体の意識改革が求められる。