パキスタン治安部隊、アフガン国境付近で武装勢力19人殺害
パキスタンとアフガンの国境地域は長年にわたり治安上の不安定要因を抱えている。
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パキスタン軍は11日、北西部カイバル・パクトゥンクワ州で武装勢力の隠れ家3カ所を急襲し、戦闘員19人を殺害したと発表した。
それによると、治安部隊は同国最大のイスラム過激派TTP(パキスタンのタリバン運動)の隠れ家を摘発したという。
軍は声明で、「治安部隊は10日にテロリスト14人、11日に5人を無力化した」と述べた。
アフガンと国境を接するカイバル・パクトゥンクワ州と南西部バルチスタン州では近年テロが多発。その多くにTTPと反政府勢力バルチスタン解放軍(BLA)が関与している。
TTPとアフガンのタリバンは別組織だが、思想は共有している。TTPは現在、アフガンの山岳地帯に潜伏しているとみられ、2022年11月に中央政府との停戦協定を一方的に打ち切った。
TTPは先週、カイバル・パクトゥンクワ州バヌーの軍拠点を襲撃し、兵士6人を殺害していた。
パキスタンとアフガンの国境地域は長年にわたり治安上の不安定要因を抱えている。両国の国境は「デュラント・ライン」と呼ばれ、19世紀末にイギリスが一方的に引いた線引きに基づいている。この境界はパシュトゥン人をはじめとする民族共同体を分断しており、アフガンは歴史的にこの境界線を承認していない。そのため国家間の政治的不信が根強く、国境管理の脆弱性が武装勢力や密輸の温床となっている。
特に2001年以降のアフガン戦争ではタリバンやアルカイダなどの武装勢力が国境を越えて活動し、パキスタン側の連邦直轄部族地域(旧FATA)やバルチスタン州に拠点を築いた。これに対しパキスタン軍は断続的に掃討作戦を実施してきたが、山岳地帯に広がる複雑な地形や住民との結びつきにより、武装勢力の完全な排除は困難であった。また、米軍のドローン攻撃がパキスタン領内で行われたことは主権侵害として国内世論を刺激し、治安問題をさらに複雑化させた。
2021年の米軍撤退とタリバンのアフガン政権復帰以降、国境の治安は悪化した。パキスタン政府はタリバンに対し、TTPを抑制するよう求めてきたが、実際にはTTPの活動は活発化しており、パキスタン国内での自爆攻撃や警察施設への襲撃が頻発している。
タリバン暫定政権はTTPに対して明確な対処を示さず、むしろ民族的・宗教的なつながりから黙認しているとの見方が強い。このため両国関係は緊張を繰り返しており、国境封鎖や衝突も散発的に発生している。
さらに、国境地帯は武器・麻薬・燃料などの密輸ルートとしても機能しており、これが武装勢力の資金源になっている。国境沿いの村落は国家の統治が十分に及ばず、住民は武装勢力や密輸業者との関係に依存して生活を維持している場合も多い。そのため、治安対策は単なる軍事的介入では効果が薄く、経済開発や住民の統合政策と併せて進める必要があるとされている。
パキスタンは国境管理強化のため、国境フェンス建設や検問所の設置を進めているが、アフガン側はこれを一方的な国境固定化とみなし反発している。結果として、国境をめぐる政治的対立と武装勢力の浸透が重なり、治安の改善は一進一退の状況にある。総じて、この地域の不安定性は両国のみならず、地域全体の安全保障に直結する重大な問題となっている。