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北朝鮮、外国メディアの流通に関わった市民を処刑=国連

北朝鮮の人権状況は国家による徹底した統制と抑圧に支えられた「恐怖のシステム」といえる。
2022年12月26日/北朝鮮、平壌の労働党本部、金正恩 党総書記(Korean Central News Agency/Korea News Service)

北朝鮮政府が独裁体制と弾圧を強化する一環として、韓国ドラマなどのテレビ番組を含む外国メディアの流通に関わった人々を処刑している。国連が12日、明らかにした。

それによると、2014年以降、新技術の導入により監視はより広範になり、処罰はより厳しくなった。これには外国のテレビドラマを共有するなどの行為に対する死刑の導入も含まれる。

国連は300人以上の脱北者や被害者への聞き取り調査に基づく14ページの報告書を公表。こうした規制により北朝鮮が世界で最も制限の厳しい国となったと指摘している。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のソウル事務所代表を務めるヒーナン(James Heenan)氏はジュネーブの記者団に対し、「北朝鮮では新型コロナウイルス対策の制限以降、一般犯罪と政治犯罪の両方における処刑件数が増加した」と述べた。

またヒーナン氏は「韓国で人気のドラマを含む外国のテレビシリーズを配布したとして、新たな法律の下で既に不特定多数の人々が処刑されている」と付け加えた。

北朝鮮の人権状況は国際社会において最も深刻な懸念の一つとされている。体制の本質そのものが、個人の自由や人権を徹底的に制限することを前提として構築されているため、国際的な人権基準から大きく逸脱している。北朝鮮では言論、表現、信教、移動の自由といった基本的権利がほとんど存在せず、国家が国民の生活を厳格に統制している。

まず特徴的なのは、徹底した監視と思想統制である。金日成以来の「主体思想」や「金日成・金正日主義」と呼ばれる独自のイデオロギーが国民に強制され、教育やメディアはすべて国家の宣伝装置として機能している。異論や批判は一切許されず、体制に反する言動を行ったと見なされた者は「反革命分子」として摘発される。密告制度が社会全体に根付いており、家族や近隣住民の行動すら監視対象となる。

また、政治犯収容所の存在は北朝鮮人権問題の象徴とされる。国連の調査報告や脱北者の証言によると、数万人から十数万人がこうした収容施設に収監されており、強制労働、拷問、飢餓、処刑といった非人道的な待遇を受けている。特に恐ろしいのは「連座制」で、ある個人が体制に反した行為を行ったとされると、その家族三世代までもが収容所送りとなるケースが多い。こうした制度は人々に恐怖を植え付け、体制への服従を強制する役割を担っている。

経済面でも人権侵害は深刻である。国家は長らく配給制度を通じて国民の生活を管理してきたが、1990年代の「苦難の行軍」と呼ばれる飢饉期には数十万から数百万人規模の餓死者を出した。その後、非公式の市場(ジャンマダン)が拡大し、部分的に人々の生活を支えているが、当局はこれを黙認したり取り締まったりと恣意的にコントロールしている。食料や生活必需品へのアクセスは不均等であり、党や軍の幹部層が優先的に恩恵を受け、庶民は慢性的な飢餓と欠乏に苦しんでいる。

女性や子どもの権利も十分に保障されていない。女性は労働力として強制的に動員される一方で、性的搾取や家庭内暴力からの保護は極めて不十分である。脱北を試みた女性が中国で人身売買や性的虐待の被害に遭う例も多い。子どもに関しても、教育は体制への忠誠を植え付けるための手段であり、自由な思考を育む場とはなっていない。さらに、孤児や親を失った子どもは劣悪な環境に置かれ、十分な栄養や医療を受けられないまま成長を強いられる。

信仰の自由もほぼ存在しない。宗教活動は厳格に禁止され、公式に認められた宗教団体はすべて国家の統制下にある。秘密裏に聖書を所持したり布教活動を行ったりする者は厳しく処罰され、場合によっては死刑に処される。北朝鮮では事実上、国家と指導者が「宗教」に置き換わっており、個人の信仰心が許容される余地はない。

移動の自由も大きく制限されている。国内の移動ですら許可証が必要であり、勝手に居住地を変えることはできない。国外への脱出は「反逆」とされ、摘発されれば収容所送りや処刑の対象となる。中国に逃れた脱北者も送還されれば厳罰に処されるため、多くは命懸けで第三国を目指すしかない。

さらに、情報へのアクセスも厳しく制限されている。国外の放送やインターネットは遮断され、外部世界の情報を入手することは極めて困難である。USBやDVDを通じて韓国ドラマや外国映画を密かに視聴する者も増えているが、発覚すれば重い刑罰を受ける。こうした情報統制は体制維持の柱となっており、国民を孤立させ続けている。

国際社会は長年にわたり北朝鮮の人権問題に注目してきた。国連人権理事会や国連総会では度々非難決議が採択され、2014年には国連調査委員会(COI)が北朝鮮の行為を「人道に対する罪」と認定する報告書を公表した。しかし、北朝鮮当局はこれを「内政干渉」として一切認めず、改善の兆しは見えていない。制裁や外交的圧力も体制の変化を促すには至らず、むしろ一般国民の生活苦を深める側面もある。

北朝鮮の人権状況は国家による徹底した統制と抑圧に支えられた「恐怖のシステム」といえる。人権侵害は社会の隅々にまで浸透し、国民は自由や尊厳を奪われたまま生きざるを得ない。体制の存続がこうした構造に依存している以上、短期的な改善は難しく、国際社会は粘り強い監視と支援を続けるほかない状況に置かれている。

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