香港のメディア王ジミー・ライ氏の裁判結審へ、民主主義の闘士
ライ氏は78歳、衣料品チェーン「Giordano(佐丹奴)」で実業家として成功し、その後メディア事業に転じた。
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香港の著名なメディア企業家で民主化運動の象徴的存在であるジミー・ライ氏(黎智英、Jimmy Lai)氏が長年続く国家安全維持法に基づく裁判での判決を目前に控える中、香港の法の支配と自治の行方を象徴する重要な局面を迎えている。
ライ氏は中国共産党の強い影響力と対峙し続け、自由と民主主義の擁護を掲げた人物として国内外で大きな注目を集めてきた。
ライ氏は78歳、衣料品チェーン「Giordano(佐丹奴)」で実業家として成功し、その後メディア事業に転じた。1995年に創刊したリンゴ日報(Apple Daily)は政治・社会問題に対する鋭い批判と自由主義的姿勢で人気を博した。しかし同紙は2021年、香港当局による資産凍結と警察の強制捜査を受けて廃刊・閉鎖に追い込まれた。
ライ氏の政治的立場は1989年の天安門事件を契機に形成された。当時の出来事を目撃、民主化と人権尊重を強く支持するようになり、メディアを通じて中国共産党と香港政府への批判を展開した。この姿勢は香港返還後の自治尊重を求める「一国二制度」の理念と結び付き、特に2014年の「雨傘運動」や2019年の大規模な反政府抗議の際には積極的な支援と発言を行った。
その結果、ライ氏は2019年以降、当局の標的となった。2020年に導入された国家安全維持法に基づき、ライ氏は「外国勢力と結託して国家安全を危険にさらした」との容疑で逮捕された。その後も何度も起訴と拘留が繰り返され、現在の裁判は長期の公判となっている。検察側はライ氏が外国との接触を通じて暴動を促したと主張、国家安全違反で終身刑に処される可能性がある。
ライ氏は法廷で「自由と情報は不可分」と主張し、自らの活動は香港市民の基本的自由を守るためのものであると強調している。一方、裁判所はその主張を受け入れず、「政治犯」ではなく刑事責任を問われているとの立場を取っている。
ライ氏は刑務所での拘禁生活が長期化する中で健康状態が悪化していると報じられており、糖尿病や心臓関連の症状を抱えているとの情報もある。家族は健康への懸念を国際社会に訴えており、欧米諸国や人権団体もライ氏の処遇に関して懸念を表明してきた。妻と子どもたちは裁判を通じて支援を続けている。
今回の裁判の判断は香港における言論・報道の自由、司法の独立性、そして「一国二制度」の実効性を巡る国際的な注目を集めている。支持者らはライ氏を自由と民主主義の象徴と位置づけ、仮に有罪となれば香港の自由空間のさらなる縮小を象徴する出来事になると懸念している。国際社会もこの裁判の行方を注視し、特に米英両国やEUは香港政府に対して透明性と公平な裁判手続きを求める声を上げている。
ライ氏の闘いは香港の自由をめぐる歴史の一部であり、彼自身が長年掲げてきた民主化の理念の存続が厳しい試練にさらされている。裁判の結論は今後の香港社会の方向性を示す重要な節目となるだろう。
