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バリ島で違法薬物製造、ウクライナ国籍の男に終身刑 インドネシア

インドネシアの麻薬取締法は東南アジアの中でも特に厳しいことで知られている。
2025年9月18日/インドネシアの裁判所、違法薬物を製造した罪で起訴されたナザレンコ被告(AP通信)

インドネシアの裁判所は18日、バリ島で違法薬物を製造した罪で起訴されたウクライナ国籍の男に終身刑を言い渡した。

ナザレンコ(Roman Nazarenko、40歳)被告は24年5月にバリ島からタイに逃亡。7カ月間の逃亡の末、逮捕され、インドネシアに引き渡された。

バリ島警察は24年5月に被告の自宅を家宅捜索し、大麻栽培施設と合成麻薬エクスタシーの前駆体を製造するラボを発見した。

被告はタイからドバイに逃亡しようとし、バンコク国際空港で逮捕された。

デンパサル地方裁判所の判事は被告が利益を得るために大麻や合成麻薬を製造していたと指摘。終身刑を言い渡した。

被告と共謀して薬物を製造したとされるロシア国籍の男は逃走中。このラボで働いていたウクライナ人2人は懲役20年の実刑判決を受けた。

地元メディアによると、3人は控訴する意向を示しているという。

インドネシアの麻薬取締法は東南アジアの中でも特に厳しいことで知られている。これは同国が地理的に麻薬の生産地と消費市場の中継点に位置し、また国内にも麻薬の乱用問題が根強く存在することに起因している。インドネシアでは1970年代以降、麻薬の密輸や乱用が社会問題化し、国家の治安と若年層の健全育成を脅かす要因として扱われるようになった。そのため政府は強硬な法律を制定し、厳罰主義を基本方針としてきた。

現在の麻薬取締りの根拠法は2009年に制定された「麻薬法」(Law on Narcotics, Law No. 35/2009)である。この法律は、それ以前の1976年法および1997年法を改正し、取締り体制を強化したものである。法律は麻薬を種類によって「第1級(最も危険性が高い)」「第2級」「第3級」に分類しており、それぞれの所持、使用、製造、密輸、販売について異なる刑罰を定めている。特に第1級麻薬(ヘロイン、コカイン、メタンフェタミン、大麻など)の扱いは非常に厳しく、少量の所持や使用であっても長期の禁錮刑が科される可能性が高い。

処罰の厳しさは国際的にも突出している。例えば単なる使用目的の所持であっても最長4年の懲役刑が規定されており、販売や密輸となると20年から終身刑、あるいは死刑に至るケースもある。特に大量の麻薬を密輸した場合、外国人であっても死刑判決を免れることは難しい。実際、オーストラリア人を含む「バリ9」と呼ばれるグループが2005年に逮捕され、数名が死刑執行を受けた事件は国際的に大きな注目を集めた。この事件はインドネシア政府が外国からの圧力に屈せず、自国の厳罰主義を貫く姿勢を示した象徴的な例となっている。

一方で、麻薬使用者を「犯罪者」とみなすだけでなく「治療が必要な依存者」として扱う面も法には盛り込まれている。2009年法は、自己使用のために少量を所持している依存者に対しては、刑務所ではなくリハビリ施設への送致を可能にしている。しかし現実には、裁判官や警察の裁量が大きく、依存者が治療の対象とされるよりも刑務所に収監される例が多い。インドネシアの刑務所はすでに過密状態にあり、その多くを麻薬関連犯罪者が占めているという実情がある。

麻薬取締の執行機関としては国家麻薬庁(BNN)が中心的役割を担っている。BNNは国内外の麻薬密輸ルートを監視し、国際的な協力体制を通じて摘発を進めている。インドネシアは「ゴールデントライアングル」や「ゴールデンクレセント」といった主要生産地に近く、さらに広大な海域を有するため、密輸の取り締まりは困難を極める。BNNはしばしば軍や警察と連携し、海上での摘発や国内での一斉捜査を行っている。

インドネシアの厳罰主義は一部から強い批判を浴びている。人権団体は、死刑が依然として適用されていることを問題視し、国際人権規約の趣旨に反すると主張している。また、貧困層や教育を受けられなかった若者が麻薬に関与しやすい社会構造にもかかわらず、法はその背景を十分に考慮していないという批判もある。特に密売組織の末端で活動する運び屋が重罰を受ける一方で、背後にいる大規模な犯罪ネットワークの摘発が十分でないという指摘も多い。

それでも政府は「麻薬は国家の敵」であるという立場を崩さず、国民に対しては厳格な姿勢をアピールし続けている。歴代大統領も麻薬対策を優先政策の一つに掲げ、特にジョコ・ウィドド政権下では死刑判決の執行を繰り返すなど強硬路線が顕著であった。こうした方針は一部国民から支持を得ており、治安維持と若者保護を理由に「厳罰が必要」との世論も根強い。

インドネシアの麻薬取締法は厳罰とリハビリの両立を理念として掲げつつも、実際には前者が圧倒的に優先されている状況にある。国際的には人権面での批判と国家主権の尊重という二つの立場が対立しており、今後の展望は不透明である。しかし、地理的条件と社会問題の深刻さを考えると、インドネシアが今後も厳格な麻薬政策を続けることはほぼ確実だといえる。

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