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インドネシア政府、1.5兆円規模の経済刺激策を発表

インドネシア経済は安定した成長基盤を持つ一方で、構造改革や社会的課題の解決が今後の持続的発展に不可欠な状況にある。
インドネシア、首都ジャカルタの夜景(ロイター通信)

インドネシア政府は15日、16兆2300億ルピア(約1.45兆円)に上る新たな経済刺激策を発表した。食料支援やインフラ整備プログラムを含み、60万人以上に一時的な雇用を提供する可能性があるとしている。

ハルタルト(Airlangga Hartarto)経済担当調整相は記者団に対し、「この景気対策は25年第4四半期(10~12月)に実施される」と説明。一部施策は2026年まで延長されると付け加えた。

インドネシアの第2四半期GDPは前年同月比で5.12%増。2年ぶりの高成長を記録したが、政策担当者からは次四半期に減速の兆候が見られると指摘していた。

ハルタルト氏は「この刺激策により、今年の成長率目標5.2%の達成が可能であると期待している」と述べた。

政府は第4四半期に1830万世帯に米10キロを配布し、観光業従事者の個人所得税を免除。さらに9月から12月にかけて60万人以上を対象とした「現金支給型雇用創出事業」に5兆3000億ルピアを割り当てる方針である。

インドネシアは東南アジア最大の経済大国であり、世界第16位の名目GDPを有する新興市場国である。人口は約2億7000万人で、労働力人口が多く内需が大きいことが経済の強みとなっている。経済構造は多様であり、農業、鉱業、製造業、サービス業がバランスよく存在しているが、近年は製造業とサービス業の比重が拡大し、経済の高度化が進んでいる。特にパーム油、天然ガス、石炭などの天然資源輸出は経済の基盤を支える一方で、輸出依存度が高く、国際市場の価格変動に影響を受けやすい側面もある。

近年の経済成長率は安定しており、2019年には5.0%のプラス成長を記録したが、新型コロナウイルスの影響で2020年には2.1%縮小した。その後、世界的な景気回復と国内需要の増加により2022年には約5.3%の成長を達成している。インフラ整備や都市開発、交通網の整備が経済成長を支えており、特にジャカルタやスラバヤなどの大都市圏での経済活動が活発である。

インドネシアの経済政策は国内消費の拡大と投資誘致を軸としている。政府は外国直接投資(FDI)の促進を図るために、規制緩和や投資優遇措置を導入しており、製造業やハイテク産業への外資流入を積極的に促進している。特に自動車産業や電子部品産業は外国企業の参入が増え、雇用創出にも貢献している。一方で、農業や伝統的な小規模産業は生産性の低さや技術革新の遅れにより経済成長の恩恵を十分に受けていない。この格差が地域間・階層間の経済的不平等を生む要因となっている。

金融面では、インドネシアは通貨ルピアを使用し、中央銀行が金融政策を担う。インフレ率は近年は比較的安定しており、3%前後で推移しているが、世界的な原材料価格の高騰や輸入物価上昇の影響で上昇圧力がかかることもある。対外的には経常収支は黒字傾向にあるものの、輸入依存度の高い資本財やエネルギー資源の調達が課題であり、外貨準備の安定確保が重要となっている。

社会面では、都市化の進展により労働市場が変化しており、サービス業や情報通信分野の雇用が増加している。特に電子商取引やデジタル経済の拡大は新たな成長分野として注目されている。しかし、農村部や地方都市では依然として貧困や教育機会の格差が存在し、これが社会的不満や地域間格差の要因となっている。

環境面では、パーム油生産や森林伐採による環境破壊が国際的な批判を受けており、持続可能な開発との両立が課題となっている。政府は環境保護政策や再生可能エネルギーの導入を推進しているが、経済成長とのバランス確保が容易ではない。

今後の展望としては、インドネシアは人口規模と国内市場の大きさを活かした内需主導型経済への転換を進めると同時に、製造業やデジタル経済への投資拡大を通じて経済の高度化を図ることが期待される。また、インフラ整備や教育水準の向上を通じて生産性の向上を目指す必要がある。地域間格差や貧困問題、環境問題への対応も持続的成長の鍵となる。対外的には、ASEAN諸国や中国、米国、日本などとの経済関係を強化し、輸出依存のリスクを低減させることが重要である。

インドネシア経済は安定した成長基盤を持つ一方で、構造改革や社会的課題の解決が今後の持続的発展に不可欠な状況にある。

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