インドネシアで新刑法施行、オランダ植民地時代から決別、懸念も
これは独立以来初めての大規模な刑事法体系の刷新であり、同国の法制度における歴史的な転換点となった。
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インドネシアは1月2日、オランダ植民地時代の刑法を正式に廃止し、新たな刑法(KUHP)を施行した。これは独立以来初めての大規模な刑事法体系の刷新であり、同国の法制度における歴史的な転換点となった。新刑法は2022年に国会で可決され、3年間の移行期間を経て施行した。
旧刑法は1945年の独立以降もオランダが制定した規定に基き、多くの国民や専門家から「時代遅れで現代社会やインドネシアの価値観に合致しない」と批判されてきた。新刑法はこの旧法体系を置き換え、インドネシア固有の文化や社会的価値観を反映した現代的な法律体系への移行を目指したものだとして、政府は「法体系の主権回復」と位置づけている。
新刑法は345ページにわたる内容で、婚外性交や同棲を犯罪とする規定、国家元首や国家機関への侮辱行為の再導入、冒涜に対する規定の拡大など、従来にはなかった多くの条文を含む。婚外性交は最長1年、同棲は最長6カ月の刑罰が設けられているが、これらの訴追は配偶者や親、子どもからの申し立てがある場合に限定されるとしている。政府側は、観光客などに対する恣意的な適用を防ぐための措置だと説明している。
また、新刑法では現職の大統領、副大統領、国家機関、国の理念に対する侮辱行為を犯罪として規定し、最長3年の懲役を科す条項が復活した。政府は批判と正当な表現の区別を明確にするガイドラインを設けたとしているが、人権団体などからは表現の自由の制約や捜査権の濫用につながる懸念が指摘されている。
一方で、人権団体は新刑法がプライバシー侵害や差別的執行につながる可能性を懸念し、批判を強めている。アムネスティ・インターナショナル・インドネシア支部の代表は、この刑法が言論や平和的抗議を犯罪化する危険性をはらんでいると述べ、権力の乱用を招く恐れがあると警告した。
新刑法は冒涜や宗教的逸脱に対する刑罰、共産主義思想の流布に対する処罰、そして堕胎の禁止規定とその例外規定などを含む一方、死刑制度は存続させつつも一定の猶予期間や減刑の可能性が導入されている。これは刑事司法制度における柔軟性を持たせる意図とされている。
改革の過程では、2019年に旧版の改正案に対する大規模な抗議デモが発生し、議論が一時停滞した。批判の中心は少数派への差別や立法過程の不透明性で、議会は透明性を高める修正と最終承認のプロセスを進めた。
政府は新刑法施行を「より人道的で現代的、公平な法制度への一歩」と位置づける一方、国内外の人権団体や市民社会は引き続き条文の運用と影響を注視している。これによりインドネシアの司法制度は独立後80年以上続いた植民地法体制からの脱却を果たす一方で、自由と規制のバランスに関する新たな国内論争の焦点となっている。
