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インド・ヒンズー教寺院の「王室の厨房」改修工事中も食事提供続ける


この伝統的な厨房では近年、老朽化が進んだ施設の修復が進められており、歴史と信仰を支える象徴として改めて注目を集めている。
2026年3月27日/インド、東部オディシャ州、ヒンズー教の寺院(Getty Images)

インド東部オディシャ州にあるヒンズー教の聖地ジャガンナート寺院には数百年にわたり一度も火を絶やすことなく食事を提供し続けてきた巨大な「王室の台所」が存在する。この伝統的な厨房では近年、老朽化が進んだ施設の修復が進められており、歴史と信仰を支える象徴として改めて注目を集めている。

この厨房は「ロサガラ」と呼ばれ、寺院の中心的な機能の一つを担う。内部には多数の調理室と土製のかまどが並び、毎日数百人規模の料理人と助手が働く。調理はすべて薪火と素焼きの鍋を用いた伝統的な方法で行われ、野菜中心の料理が決められた規律のもとで作られる。タマネギやニンニクなどの使用は禁止され、調理中に味見をすることも許されない。こうした厳格な手順は宗教的儀礼の一部であり、単なる食事ではなく神への供物としての意味を持つ。

この厨房の特徴は、その規模と継続性にある。数百年前の王朝時代に整備され、戦争や災害、社会変動を経ても一度も完全に稼働を停止したことがない。現在でも毎日数千人から数万人分の食事が調理され、巡礼者や参拝者に提供されている。特に祭礼時の数は飛躍的に増加し、膨大な量の食事が絶え間なく作られる。

料理は神に供えられた後、「マハプラサート」と呼ばれる聖なる食事として配られる。この食事は身分や宗教を問わず誰でも口にすることができ、インド社会における平等の象徴ともなっている。また、必要な量が不思議と不足も過剰もなく供給されるという信仰的な逸話も語り継がれており、信者の間では神の加護の現れと考えられている。

近年、この歴史的厨房は老朽化や衛生面の課題に直面していた。長年の使用により設備の劣化が進み、安全性や作業効率の向上が求められていた。そのため当局は、伝統的な構造や調理方法を維持しつつ、排水や換気などのインフラ改善を進める修復計画を開始した。現代的な技術を取り入れながらも、宗教的規範や長年の慣習を損なわないよう慎重に作業が進められている。

この取り組みは、単なる建物の改修にとどまらない。何世紀にもわたり続いてきた食文化と宗教実践を次世代に継承する試みでもある。インドでは寺院の厨房が地域社会の食の基盤として機能してきた歴史があり、大規模な炊き出し文化は現在も各地で受け継がれている。ジャガンナート寺院の厨房はその象徴的存在であり、信仰と共同体を結びつける役割を果たしている。

観光や文化遺産としての価値も高く、国内外から多くの人々がこの厨房の存在に関心を寄せている。巨大な調理システムや独自の技法は、現代の大量調理とは異なる持続的な食のあり方を示すものでもある。

数百年の歴史を持ちながら、現在も休むことなく稼働し続けるこの「王室の台所」は、インドの宗教的伝統と社会的連帯を象徴する存在である。修復事業を通じてその機能と価値が維持されることは、単に過去を守るだけでなく、未来に向けた文化の継承という意味を持つ。

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