SHARE:

インド、リチウムイオン電池のリサイクル産業拡大目指す、課題も

インドでは過去10年でバッテリーから鉱物を回収する基盤が整いつつある。
インド、首都ニューデリーのバッテリー処理工場(AP通信)

インド政府は電気自動車(EV)やスマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池のリサイクル産業を戦略的に拡大しようとしている。この動きは再生可能エネルギーへの転換を加速させると同時に、輸入に依存する重要鉱物(レアメタルなど)の確保、そして新たな雇用創出につながる可能性があると期待されている。

インドでは過去10年でバッテリーから鉱物を回収する基盤が整いつつある。リチウム、コバルト、ニッケルといった貴重な鉱物はリサイクルによって再利用され、国内のEVや太陽光発電などの拡大を支える重要な資源となる見込みだ。これらの鉱物は通常海外からの輸入に頼っているが、リサイクルによる供給が進めば外部依存を削減できる利点がある。

北部ウッタルプラデシュ州ノイダに拠点を置くバッテリー製造・リサイクル企業「ロフム・クリーンテック(Lohum Cleantech)」のCEOはAP通信の取材に対し、、「インドの銅やアルミニウムの約40%はリサイクルで賄われているが、将来的にはリチウムやコバルト、ニッケルでも同様の体制を築きたい」と語った。

再生可能エネルギー・インフラ研究機関RMIの2025年11月の報告によると、インド国内でリチウムイオン電池のリサイクル体制が確立されれば、最大10万人のグリーンジョブ(環境重視の職)の創出につながる可能性があるとされる。また、リサイクル産業の市場規模は90億ドル規模に達すると見込まれ、これは増加する国内バッテリー需要の高まりを反映している。

しかし現状には課題も多い。インド国内のバッテリーリサイクル能力は約6万トンとされるが、十分に活用できていない。回収された鉱物を工場に供給するためのサプライチェーンが未整備で、リサイクル原料の流通が停滞していることが一因とみられている。また、約400万人と推定される非公式な廃棄物リサイクル労働者の存在が、産業構造の形成を妨げているとの指摘もある。

中央政府は2022年にバッテリー廃棄物管理規則を制定し、電池メーカーに対して収集やリサイクルの目標達成を義務付けているものの、現場での実効性は乏しいとの声がある。各企業が独自に回収システムを構築しなければならず、統一的な廃棄インフラの欠如が業界の足かせになっているという。環境専門家らは、政府と州レベルでの供給網整備支援や、非公式労働者の正式雇用への移行支援策が必要だと指摘している。

リサイクルプロセス自体にも環境リスクが伴う。電池を破砕・溶解する工程では、有害ガスの発生や廃水による土壌・水質汚染の危険があるため、クリーンな処理技術と規制遵守が求められている。適切な環境管理が欠如すれば、せっかくのリサイクル産業が新たな汚染源になる恐れもある。

インドは国内にリチウム鉱山を持たず、中国が鉱物供給の多くを支配している。こうした中で、高効率のリサイクル体制を構築できれば、鉱物安全保障を強化し、長期的なクリーンエネルギー戦略の中核となる可能性もある。業界関係者は、国内外の投資と技術革新により、インドがリサイクル主導の鉱物供給チェーンを確立できるとの楽観的な見方を示している。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします