SHARE:

香港議会、基準未満の「棺桶ハウス」禁止法案を可決

香港の住宅問題が2019年の反政府デモの要因と見る中国共産党は2049年までにいわゆる「棺桶ハウス」を段階的に廃止するよう求めている。
香港のアパート群(Getty Images)

香港の立法会(議会、定数90)は26日、アパートに最低面積や専用浴室などの基準を義務付ける法案を賛成多数で可決した。

市内では約22万人が「通常の部屋」を分割して作られた狭い居室で生活している。一部の空間では調理場の隣に便器が設置されていたり、洗面台がなかったり、隣人と洗面所を共有していたりする。

香港の住宅問題が2019年の反政府デモの要因と見る中国共産党は2049年までにいわゆる「棺桶ハウス」を段階的に廃止するよう求めている。

政府報道官は声明で、「基準を満たさない環境で暮らす人々を見るのは痛ましい。こうした苦しみはあってはならない」と述べた。

立法会は数時間に及ぶ議論の末、法案を可決した。

家主には基準未達住宅の改修のための猶予期間が与えられ、最終的には基準を満たすと認められた物件のみを賃貸できるようになる。

違反した場合、最高30万香港ドル(約5760万円)の罰金と3年以下の禁固刑、違反が継続している場合は日割りの罰金を科される可能性がある。

香港の不動産問題は長年にわたり社会的・経済的な課題となったいる。特に住宅価格と賃料の高騰、供給不足、投機的取引、社会的格差の拡大が主要な論点である。香港は地理的に山地が多く、居住可能な土地が限られているうえ、政府が土地を厳格に管理し、供給を調整していることから、土地そのものの希少性が市場価格を押し上げる構造がある。さらに中国本土からの資金流入や国際的投資家による需要も加わり、住宅市場は極端な高価格帯へと偏りやすい状況にある。

このような環境下で、一般市民にとって自宅の購入は極めて困難となっている。国際的な調査によると、香港は世界で最も住宅価格が所得に比して高い都市の一つとされており、中間層であっても数十年にわたり収入を貯蓄し続けなければ持ち家を購入できないと指摘されている。そのため多くの家庭は公営住宅や狭小住宅に依存せざるを得ず、人口密度の高さと居住環境の劣悪さが社会問題化している。

特に「棺桶ハウス」「鳥かご」などと呼ばれる、狭いアパートをさらに細分化した違法に近い住居形態が広まり、数平方メートルの空間に家族が暮らす例も珍しくない。

不動産価格高騰の背景には、香港政府の財政構造も大きく関わっている。香港は租税負担が比較的低く、代わりに土地売却収入に大きく依存している。このため政府は土地供給を急激に拡大させるインセンティブを持ちにくく、むしろ土地価格を高水準に維持することで財政基盤を確保してきた。結果として、住宅供給の不足と価格の高止まりが慢性化し、市民の住宅難は長期的に解決されていない。

さらに近年では、社会的格差と政治的不満の背景としても住宅問題は重要な要因となっている。若者世代は高学歴であっても住宅を手に入れることが困難であり、将来展望の欠如から社会的不満を強める傾向にある。また、不動産価格の上昇は一部の資産家や投資家に利益をもたらす一方、庶民層の生活を圧迫し、社会の分断を助長している。政治的抗議行動や社会的緊張の根底には、こうした経済的不公平感が色濃く影を落としているといえる。

解決策として政府は新界地区の開発や埋め立てによる土地供給拡大、公営住宅の建設促進などを掲げているが、環境問題や地域住民の反発、開発にかかる長い時間的スパンなどから、即効性ある成果は得にくいのが実情である。また、中国本土との経済的統合が進む中で、本土資本による住宅購入需要が続く限り、価格抑制は難しいとの見方も根強い。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします