香港高層住宅火災、扇動罪で71歳男性逮捕、SNSで当局批判
男性は投稿を通じて「香港政府および中央政府への憎悪をあおる」内容を拡散し、火災の犠牲をめぐる悲痛と憤りの世論を混乱あるいは社会不安の方向へ誘導しようとしたという。
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香港北部・大埔の高層集合住宅で11月26日に発生した大規模火災(159人の死亡確認)について、捜査当局は6日、ソーシャルメディア上で火災を巡る当局への批判を投稿したとして、71歳の男を扇動罪で逮捕したと発表した。
それによると、男性は投稿を通じて「香港政府および中央政府への憎悪をあおる」内容を拡散し、火災の犠牲をめぐる悲痛と憤りの世論を混乱あるいは社会不安の方向へ誘導しようとしたという。特に、両政府を「悲劇を利用して混乱を煽る黒幕」と断定するような表現が問題視された。
さらに警察は、この男性が国家安全関連の捜査内容の一部を、捜査関係者に知らせる目的でソーシャルメディアに公開した可能性があると説明している。捜査協力のために警察署への出頭を求めた折、詳細の一部または全部を意図的に漏洩したとして、これも別の容疑にあたるとされる。
今回の逮捕は火災に関する当局批判への逮捕として初めて「公に確認されたもの」である。地元メディアは他にも複数の逮捕報道を伝えているが、警察はこれらの情報を正式には認めておらず、この一件のみを確定としている。
この火災は高層住宅の大規模修繕工事中に、燃えやすいネットやフォーム材が使用されていたことが火の急速な拡大につながったとされており、改修業者や設計事務所の責任を問う捜査が進んでいる。すでに20人以上が過失致死や汚職などの疑いで逮捕されている。
だが同時に、今回のようなソーシャルメディア投稿者の逮捕など、「悲劇を機に政府を批判・検証しようとする動き」に対しても、国家安全の観点から強い締め付けが行われている。
警察は火災やその後の対応について、誤情報の拡散や扇動行為、不安煽動につながる可能性のある言動を警戒。過去の大規模抗議運動(2019デモ)を引き合いに、「混乱再燃の防止」を正当化している。
一方で、犠牲者の家族や住民を含む多くの市民が、今回の火災を契機に安全基準の徹底、建築改修の透明性、行政・業者の説明責任の明確化を求めており、追及の声は強まっている。だが、こうした声を発すること自体が「国家安全」を理由に罰せられる可能性があるという状況は、公の議論や検証を著しく萎縮させかねず、社会的な緊張と不安をさらに深めている。
今回の逮捕は火災という大規模事故をきっかけとした行政責任追及の動きと、国家安全維持法を背景とした言論・表現の統制という、香港における「安全」と「自由」の対立構造を改めて浮き彫りにした。
真相の解明と被災者支援、公正な再発防止が求められるなかで、今後の市民の声の扱われ方、言論の自由のあり方が国内外から注目される。
