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コラム:カンボジアで詐欺拠点の摘発続く、日本人も逮捕

カンボジアにおける政府主導の詐欺拠点摘発は、2026年2月時点で約200の詐欺センター閉鎖、数千人の拘束・国外退去処分を含む大規模なキャンペーンとして進行している。
カンボジアの詐欺拠点で拘束された容疑者たち(AP通信)
現状(2026年2月時点)

カンボジアは近年、オンライン詐欺(cyberscam)及び対人詐欺組織の重要なハブとして国際社会の注目を集めている。2025年から2026年にかけて、数百の詐欺拠点が国内各地に存在し、これらを舞台とした犯罪ネットワークがアジア地域や欧米にまで被害を拡大させていたとされる。特にカジノ施設や複合商業施設などが詐欺拠点として機能し、世界各国から集められた人々が被害者となり、また加害者として関与していた構造が存在したと報告されている。

国際的な調査報告や国連人権専門家の警告では、数百か所の詐欺拠点が存在し、数十万人規模が関与していた可能性が指摘され、これらは単なる詐欺行為に留まらず、人身売買、強制労働、監禁、暴力などの人権侵害が複合的に絡み合った重大な社会問題であったとされる。


オンライン詐欺拠点(スキャム・センター)の摘発を強化中

2025年後半以降、国際的な圧力と複数国の捜査協力のもと、カンボジア政府はこれら詐欺拠点の摘発を強力に進めている。政府はオンライン詐欺対策委員会を中心に、全国的な取り締まりを展開している。

政府側の発表では、2026年初頭までに約190か所の詐欺拠点を閉鎖し、173名の上級犯罪関係者を逮捕、およそ11,000人の働き手を国外退去処分とする大規模な摘発キャンペーンを実施したとされる。

また、複数の都市で詐欺ネットワークがカジノやホテルを隠れ蓑にしていたとの疑いから、南部シアヌークビルやベトナム国境付近バベット市で数千名規模の拘束・捜査が行われている。日本人を含む多国籍の拘束者が確認されており、国際的な捜査対象となっている。


摘発の現状

政府の公式発表によると、閉鎖された詐欺拠点は国内各地に点在している。これらはカンボジア南部のシアヌークビル、東部・南東部のスバイリエン州バベット、カンポット等が主要な地点とされる。約190の拠点で摘発が実施され、複数の豪華カジノ施設や複合施設内に詐欺目的のコールセンターやオンライン詐欺業務が発見された。

摘発の規模は大規模であり、1月末の一斉捜査では約2,044人の外国人が拘束されたという政府発表がある。中国人が多数を占めるほか、ベトナム、ミャンマー、ネパール、台湾、マレーシア、インドなど多国籍の関与者が確認された。

しかしながら、こうした摘発が詐欺業務の恒久的な封じ込めにつながるかについては、専門家やNGOから懐疑的な評価も存在する。摘発後に従業者が逃走し、政府による保護や支援が不足しているとの指摘も報告されている。


大規模摘発の実施

2026年2月10日、シアヌークビルのカジノホテルを中心とした特殊詐欺拠点に対し、大規模な摘発作戦が実施された。この件では日本人、中国人、韓国人を含む合計約805人が拘束されたと地元報道が伝えている。この施設からは多数のパソコンや携帯電話が押収され、捜査当局は詐欺に関与した可能性を捜査している。

このような多国籍の拘束は、日本やその他国々による協力要請や情報共有が背景にあり、国際協調捜査が進展しているという面を示すものともいえる。


根絶に向けた期限設定

カンボジア政府は、公式に2026年4月までに国内の詐欺拠点を根絶するという目標を掲げ、摘発の強化と広報を進めている。

この期限設定は、国際的な非難や経済制裁、地域安全保障上の懸念を受けてのものであり、政府が内部政策として詐欺ネットワークの封じ込めに本格的に取り組む姿勢を示している。


カジノライセンスの停止

詐欺拠点の多くが、カンボジア国内のカジノ運営会社や関連事業者を偽装した業務の一部として機能していたとされる。これを受けて、政府は該当するライセンスの一時停止や取消しを進める動きを見せている。これには、詐欺行為の直接的な拠点として機能していた例だけでなく、不正なビザ発給や労働許可の問題が関与するケースも含まれる。


国際的な詐欺組織の実態

詐欺センターの運営は、単独の小規模犯罪集団によるものではなく、高度に組織化された国際的犯罪ネットワークによる運営が指摘されている。米英による制裁の対象となった「プリンス・ホールディング・グループ」と呼ばれる組織は、数百億ドル規模のサイバー詐欺と人身売買に関与してきたとされ、米英政府は主要な関係者と組織を国家的な制裁対象・犯罪組織指定として公表した。

このネットワークは、カンボジアのみならずミャンマー、タイ、ラオスを含む地域全体に拠点を持ち、世界各地の被害者に対して恋愛詐欺、仮想通貨詐欺、偽投資詐欺等を展開していたとみられる。


中国系犯罪組織の主導

多くの報道や調査分析では、中国系の犯罪組織が詐欺拠点の運営や人員確保の主要構成員となっている実態が示唆されている。これら組織は人材を各国から募集し、偽の就職斡旋を通じて集められた労働者を詐欺従事者として強制的に配置する構造を持つとされる。


強制労働と「人身売買」の構造

国際NGOや人権団体の報告では、詐欺拠点で働かされていた人々の多くが強制労働、人身売買、監禁状態にあった可能性が指摘されており、いわゆる大規模な詐欺グループの拠点は事実上の近代的奴隷制(modern slavery)と評価されている。被害者は偽の高給求人に誘われ、到着後に身分証の没収や監視、暴力による拘束を受け、逃走が阻まれていたという。


勧誘と拘束

詐欺センターへの勧誘は、SNSや求人広告などを通じた偽装された就職募集が主要ルートとされる。募集段階では高額給与や福利厚生が強調される一方、到着後にはパスポート没収、自由制限、長時間労働の強要等が行われるケースが報告されているとされる。


暴力と罰金

内部関係者の証言や人権団体の調査では、拒否や抵抗を試みた人々に対して暴力的制裁や罰金が科される事例が確認されている。また、詐欺の目標達成を脅迫するために監視カメラ、フェンス、警備員が配置され、逃亡の試みが抑止されていた可能性も指摘されている。


拠点の分散化(バルーン効果)

政府の摘発強化に対し、詐欺組織は単一地点に留まらず、拠点の分散化、多国間ネットワーク化を進めていると分析される。摘発後、従業者が逃走・移動し、新たな活動拠点を形成する「バルーン効果」が観察されており、犯罪組織の適応戦略として注目されている。


AIの悪用

国際的なサイバー詐欺ネットワークでは、AI技術を悪用した詐欺手法も採用されつつあると報告されている。AIを使った音声合成やディープフェイクにより信頼性を偽装し、標的の信頼を誘導するなど、従来より高度化した詐欺手法が確認されているという分析も一部で見られる。


今後の展望

カンボジア政府は国内拠点の根絶期限を設定しつつ、国際捜査機関との連携強化、法執行能力の向上、被害者支援体制の整備が求められている。

一方で、詐欺組織の国際的なネットワーク構造、人身売買・強制労働との複合的問題は根深く、単一国の取り締まりだけでは解決が困難という専門家の指摘も多い。国際刑事警察機構(インターポール)、アジア太平洋諸国の法執行機関、国連機関との協調が不可欠とされる。


まとめ

カンボジアにおける政府主導の詐欺拠点摘発は、2026年2月時点で約200の詐欺センター閉鎖、数千人の拘束・国外退去処分を含む大規模なキャンペーンとして進行している。国際的犯罪組織が高度に組織化されたオンライン詐欺ネットワークを構築していた実態が明らかになりつつある一方で、人身売買や強制労働という重大な人権問題が深刻な社会問題として浮上している。抜本的解決には国内外の包括的な協力体制が不可欠である。


参考・引用リスト

  1. Reuters: “Cambodia says it has closed almost 200 scam centers in fraud crackdown” (2026年2月11日)

  2. AP News: “In Cambodia, thousands flood out of 'scam compounds' and find increasingly little help” (2026年2月)

  3. Al Jazeera / US & UK sanctions on Prince Group (2025年10月)

  4. Amnesty International: “Cambodia: Government allows slavery and torture to flourish...” (2025年6月)

  5. Radio Free Asia: “Amnesty accuses Cambodia of ‘gross failure’…” (2025年6月)

  6. Business-HumanRights.org: “Cambodia Govt order crackdowns on scam compounds…” (2025年7月)

  7. Cambodia local reports of large-scale detentions (2026年2月)

  8. Poste-KH: “オンライン詐欺拠点で大規模捜査…” (2026年2月)

  9. FNN Prime Online: “特殊詐欺拠点で日本人含む800人拘束…” (2026年2月)


追記:カンボジアが国際的詐欺拠点となった経緯

地政学的・経済的背景

カンボジアはアジア太平洋地域の内陸と海洋をつなぐ戦略的な位置にあり、2010年代以降、経済成長とともに外国資本の導入を積極的に進めてきた。特に中国との経済関係は深く、インフラ投資・不動産開発・観光開発が進んだ。その流れの中で、カジノリゾートや複合商業施設が数多く建設され、自由な金融環境が整備されたことが後に詐欺ネットワーク形成の土壌となった。観光やエンターテインメント産業の一部として機能したこれらの施設は、新型コロナウイルス感染症後の中国市場の縮小とともに稼働率が低下し、空き物件や廃虚が多く生じるという状況になった。これらの空間は、詐欺組織にとって物理的な拠点として利用可能なスペースとして転用された。

規制の緩さと法執行の欠如

カンボジア政府は長年にわたり外国資本誘致を優先し、規制や監視体制を必ずしも強化してこなかった。このため、カジノやオンラインカジノ関連のライセンス付与が比較的容易であり、サイバー詐欺や金融犯罪に対して十分な法的枠組みが整備されていなかったという指摘がある。また、治安機関のリソース不足や汚職の可能性も指摘され、組織的詐欺活動が潜在的に助長された背景となった可能性がある(後述のチェン・ジーの影響力と合わせて考察する必要がある)。

国際的被害の拡大と批判

こうした環境の下で、オンライン詐欺拠点(scam centres)が急増し、恋愛詐欺、仮想通貨詐欺、投資詐欺など多様な詐欺手法が実行されるようになった。詐欺被害は多国籍かつ多額に及び、国際社会からの批判が強まった。米英当局が制裁措置を講じるとともに、国連人権機関やNGOが人身売買・強制労働・虐待の実態について報告し、カンボジア政府に対する圧力が高まった。


ミャンマーの存在と詐欺拠点

隣国ミャンマー北部も、治安が不安定な地域を中心に詐欺拠点が形成された事例が複数報告されている。この地域は長年にわたり中央政府の統制が及びにくく、様々な武装勢力や少数民族武装組織が地域支配を行っていたため、法執行が困難な「空白地帯」として詐欺組織が活動しやすい状況が存在した。一部報道では、中国系犯罪組織がミャンマー北部の治安が弱い地域と協力・関与し、外国人を誘拐・人身売買し詐欺労働に従事させる事例が複数報告されている。これらの事例は、詐欺ビジネスが国家境界を越えた国際的な犯罪ネットワークとして存在することを示している。

ミャンマーにおける詐欺拠点は、カンボジアと同様に偽の求人で人々を誘引し、到着後に自由を奪い、詐欺実行者として強制的に働かせる構造が報じられている。また、詐欺組織と武装勢力、地元勢力の関与により、摘発や被害者保護が著しく困難な状況にあるとの報告もある。


中国系犯罪組織の実態

カンボジアとミャンマーで詐欺活動を展開している犯罪ネットワークの中心には、中国系犯罪組織の関与が深いという分析が多く存在する。これらの組織は、SNSや求人サイトを通じて被害者や従業者を集め、偽の高収入求人で誘引した後に自由を奪い詐欺活動に従事させるという共通した手法を用いている。

報道によると、詐欺拠点は単独で存在するのではなく、多数のグループが複数拠点を共有しつつネットワーク的に結合している。また、詐欺拠点が稼働するためのインフラ(通信回線、電力、仮想通貨ウォレット、マルチメディア拠点等)は高度に組織化されているとされる。これらの組織は、国際的な通信詐欺、恋愛詐欺、仮想通貨詐欺(ピッグブッチャー詐欺等)を主たる手法としており、世界中の被害者から多額の資金を騙取している。

犯罪組織は人身売買・強制労働・暴力的制裁・罰金制度などを用いて従業者を拘束し、逃亡を防ぐとともに詐欺収益の最大化を図っている。これにより、詐欺活動は単なる経済犯罪にとどまらず、近代的奴隷制に近い構造を持つことが指摘されている。


プリンス・ホールディング・グループ(Prince Holding Group)とは

企業概要と表向きの顔

「プリンス・ホールディング・グループ(Prince Holding Group)」は、かつてカンボジアを本拠とする複合企業として報道された組織である。表向きには不動産開発、金融サービス、カジノ運営、観光、飲食、小売、航空・物流など多角的な事業を展開している巨大企業として知られていた。複数国に支社や関連企業を持ち、政財界との強い関係性が指摘されていた。

チェン・ジー(Chen Zhi)会長の役割

「チェン・ジー(Chen Zhi)」(中国名:陳志)はこのグループの創業者で会長として知られ、カンボジア国内外で影響力を持つ人物として報じられていた。出生は中国福建省で、ネットカフェやゲーム事業の経営を経てカンボジアに移住し、同国で事業を拡大したとされる。

チェンはカンボジアの政界とも接点を持ち、フン・セン前首相や現首相フン・マネットの顧問格として関与したという報道も存在する。これにより、政財界との深い関係性を築き、事業拡大を図っていたとの見方がある。


プリンス・グループの詐欺活動と犯罪ネットワーク

国際的な報道・捜査機関の発表によれば、プリンス・グループは表向き企業活動の裏で大規模な詐欺ネットワークを構築していた疑いが強く、米英当局は同グループとチェン・ジーを国際犯罪組織として制裁対象に指定した。

このネットワークは、カンボジアやミャンマー内の詐欺拠点を利用し、偽の求人や高給話で世界中の人々を誘い込み、監禁・強制労働させる手法で詐欺業務を運営していたとされる。詐欺手法は恋愛詐欺、仮想通貨詐欺、投資詐欺、オンラインカジノ詐欺など多岐にわたり、それにより得られた資金は仮想通貨などで国内外に移転され、資金洗浄・贅沢な消費に用いられたという。


チェン・ジー会長の逮捕・起訴・送還と制裁

国際的な捜査・制裁の結果、2025年10月頃には 米英当局がチェンとプリンス・グループに対する制裁措置を発動し、資産凍結・暗号資産の差押えを実施した。

その後、2026年1月初頭、カンボジア当局はチェン・ジー会長を逮捕し、中国当局の要請に基づき中国へ送還したと発表した。これにより、カンボジア国内での彼の影響力と事業活動は大きな打撃を受けた。

チェンは中国へ送還された後、詐欺・マネーロンダリング・強制労働等の容疑で訴追される見通しであり、国際的な司法紛争の中心人物として注目されている。


体系的整理と分析

以上の情報を体系的に整理すると、次のような構造となる。

  1. 詐欺活動の形成背景:カンボジアの経済開放・外国資本誘致が、規制の緩い環境と相まって詐欺活動の温床を形成した。

  2. 詐欺ネットワークの国際性:カンボジアだけでなくミャンマー等の近隣域でも詐欺拠点が形成され、外国人を誘引・拘束する構造が存在した。

  3. 中国系犯罪組織の関与:中国系ネットワークが運営の中核を占め、詐欺収益の最大化を図るとともに、人身売買・強制労働などの複合的犯罪行為に関与していた。

  4. プリンス・グループとチェン・ジーの位置づけ:同グループは表面的には巨大小売・金融企業として機能したが、犯罪組織として世界的な詐欺ネットワークを構築していた疑いが強かった。

  5. 国際的な対処:米英等の制裁措置、国際捜査協力によりチェン・ジーが拘束・送還され、詐欺ネットワークの解体に向けた取り組みが進められている。

このように、多層的・国際的な犯罪構造が絡み合い、カンボジアが詐欺拠点として機能してきた経緯と背景が存在する。


追記まとめ

本分析では、カンボジアが詐欺拠点となった社会的・経済的背景、ミャンマーを含む地域規模での詐欺活動、中国系犯罪組織の実態、そしてプリンス・ホールディング・グループとチェン・ジー会長の役割について、関連報道と国際的な捜査動向から体系的に整理した。これらの事象は単なる経済犯罪を越え、国家間の協力・法執行強化、人権保護という課題を含んだ国際的な問題であるという点が重要である。


参考・引用リスト

  1. Reuters: Cambodia says it has closed almost 200 scam centers in fraud crackdown (2026)

  2. Reuters: Scammers' abandoned Cambodia compound exposes brutality and banality of fraud (2026)

  3. Reuters: Amnesty says Cambodia is enabling brutal scam industry (2025)

  4. Poste-KH: カンボジア有数の複合企業会長、国際的な特殊詐欺で逮捕・中国送還 (2026)

  5. Asahi ANN: “アジア最大級の犯罪組織”トップを送還 カンボジアで拘束 (2026)

  6. South China Morning Post: Regional cooperation led to arrest of alleged scam kingpin Chen Zhi

  7. The Guardian: Who are Chen Zhi and the Prince Group (2025)

  8. Wikipedia: Scam centers in Cambodia (2026)

  9. Reuters/AP News: Cambodia extradites alleged scam kingpin Chen Zhi to China (2026)

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