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香港高層住宅火災、死者156人、安全への懸念高まる

この火災は住宅密集・高層化が進む都市において、コスト削減や建設効率が安全性の裏返しとなり得るということをあらためて示した。
2025年12月1日/香港、北部大埔、火災が発生した高層集合住宅近くの献花台(AP通信)

香港北部・大埔の高層集合住宅で11月26日に発生した大規模火災について、当局はこれまでに156人の死亡を確認し、行方不明者の捜索を続けている。

火災は出火から約43時間後に鎮火、負傷者は79人にのぼり、約30人が行方不明となっている。

火災が起きた住宅群は8棟から構成され、外壁の修繕工事中であった。出火は竹製足場に張られたネットから始まったとみられ、その後、窓の改修で使われた発泡断熱材や封鎖用ボード、いずれも可燃性の素材の影響で急速に燃え広がり、強風にあおられたことで7棟まで火が拡大した。

加えて、火災報知器が機能せず、避難警告が遅れたことや、高齢者や車いす利用者など避難に時間を要する居住者が多かったことも被害を拡大させた。

火災後、当局は原因の調査と責任追及に乗り出した。改修工事を請け負っていた建設会社および関連下請けの責任者ら15人以上が過失致死や建築安全基準違反の疑いで逮捕されており、同社が手がける他の28の建築プロジェクトについても工事の一時停止が命じられた。

だが、この悲劇は単一の物件にとどまらず、香港全体の高層住宅や改修工事をめぐる「構造的問題」を浮き彫りにした。専門家らは、今回の火災が「氷山の一角」であり、入札談合、劣悪資材の使用、元請・下請の多層構造、そして行政による監督・検査の甘さが複合的に作用していたと指摘する。

実際、住民からは修繕工事の過程で以前から「外壁のネットが火災対策として不安」といった苦情が寄せられていたという。だが、労働・建設当局の定期検査では「基準に適合する」とされ、問題は表面化しなかった。火災の1週間前に検査を終えていたことも明らかになった。

今回の大惨事を受け、香港では高層住宅の改修・建設現場における資材の安全性、消防・避難設備の整備、行政監督のあり方などについて強い批判が起きている。地元当局は工事手続きの全面見直しと再発防止を約束した。

しかし、厳しい国家安全法下で、火災の原因や行政の怠慢をめぐる公開の議論には制限があるとの指摘もある。市民の間では、「一つの建物の問題ではなく香港全体の住宅安全の基盤そのものが脆弱だったのではないか」という不安が広がっており、同様の高層住宅に住む住民たちも先行きに恐怖を抱えている。

この火災は住宅密集・高層化が進む都市において、コスト削減や建設効率が安全性の裏返しとなり得るということをあらためて示した。香港のみならず、同様の都市構造をもつ世界の都市にとっても、教訓となる出来事である。犠牲になった多くの住民の冥福を祈るとともに、建築・改修における安全基準の厳格な運用と、行政の責任ある対応が強く求められている。

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