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タイ・カンボジア国境で戦闘激化、死傷者多数、全面戦争の恐れも

衝突の発端は先週末に起きた小競り合いで、少なくともタイ軍兵士数人が負傷、2カ月前に締結された停戦協定は事実上崩壊した。
2025年12月9日/カンボジアとタイの国境付近、両国の武力衝突に巻き込まれた市民(AP通信)

カンボジアのフン・セン(Hun Sen)上院議員は9日、隣国タイとの国境地帯で武力衝突が激化したことを受け、タイ側への反撃を誓い、「激しい戦闘になる」と警告した。

この声明は両国による砲撃や銃撃などの全面衝突で数万人の国境住民が避難を余儀なくされる中で出された。

衝突の発端は先週末に起きた小競り合いで、少なくともタイ軍兵士数人が負傷、2カ月前に締結された停戦協定は事実上崩壊した。現地メディアによると、両国軍は国境付近で激しく撃ち合っているという。

カンボジアの影の支配者であるフン・セン氏は声明で、カンボジア側は応戦を控えていたが、夜間にタイ軍への反撃を開始したと説明。「我々は平和を望むが、領土と主権を守るためには戦わざるを得ない」と強調した。

またフン・セン氏はタイ側が進攻してきた地点に火力を集中し、敵軍を弱体化させる戦略を取るとしている。

一方、タイ政府は交渉に応じる意向は示しておらず、現状の軍事行動を支持する姿勢を崩していない。チャーンウィーラクン(Anutin Charnvirakul)首は「計画どおり作戦を継続する」と述べ、戦闘終了まで圧力を維持すると表明した。

両国による砲撃やドローン、ロケット弾の使用や、文化的に重要な寺院の破壊なども報じられており、争いは単なる軍事対立にとどまらない深刻な展開を見せている。これは11世紀建立の古寺院をめぐる両国の民族感情や歴史認識に関わるもので、衝突により事態の根深さが改めて浮き彫りになっている。

カンボジア軍によると、新たな戦闘で少なくとも7人の民間人が死亡、20人以上が負傷。タイ側でも兵士の損失が報告されている。しかし、双方の被害状況の詳細は確認困難で、両国とも互いを非難し合っている。

避難を余儀なくされている住民は数万人規模に達し、国境近くでは臨時のシェルターや避難所が設置されている。戦闘が長期化すれば、さらなる民間人被害と人道危機の拡大が懸念される状況だ。

今回の事態は単なる領土紛争にとどまらず、歴史的な遺産、民族のナショナリズム、地域の安全保障、住民の人道的被害など多くの要素が絡んだ深刻な危機である。国際社会、とりわけ近隣諸国や多国間機構による仲介と、人道支援の動きが喫緊の課題となっている。

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