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中国は世界の鉄鉱石市場を支配できるか、内幕と分析

中国政府がこのような戦略を採る背景には、世界の鉄鉱石市場における従来の供給構造の変化がある。
鉄鉱石の採掘場(ロイター通信)

中国政府が世界の鉄鉱石市場の主導権を強化しようとしている動きが国際商品市場で注目を集めている。中国の国有企業であるCMRG(China Mineral Resources Group/中国鉱産資源集団)が、オーストラリアやブラジルの大手鉱山会社との交渉でより強硬な戦術を採用し、鉄鋼メーカーにとって有利な条件を引き出そうとしている。これは世界のシーバーン鉄鉱石市場(約1320億ドル規模)における中国の影響力を高める狙いがある動きだ。

CMRGは2022年に設立され、中国の年間輸入量12億トン超のうち半分以上を代表して交渉する存在となっている。CMRGは従来のスポット購入に加え、長期契約の条件見直しを求めるなど、複数の戦術を駆使して大手鉱山側に圧力をかけている。特にオーストラリアの大手BHPとの交渉では、CMRGが複数の製品をブラックリスト化するという前例のない手法を用いるなど、強硬姿勢を強めている。

中国の鉄鋼メーカーの中には、CMRGの交渉戦略に対して批判的な声もある。ある鋼鉄メーカー幹部は、CMRGによる価格引き下げや契約条件改善の成果が限定的であり、さらに「必須サービス」としての手数料負担が調達コストの増加につながっていると指摘している。ロイター通信はこの幹部の話しとして、「CMRGの活動が政治的課題であり、協力せざるを得ない状況だ」と報じた。

一方で、CMRGの戦術には一部成功例も見られる。英豪系資源大手リオ・ティントからは大口貨物の輸送費に1トン当たり1ドルの割引を引き出した。さらにCMRGは上海を拠点にスポット積極買いも進め、今年1億トンの取引を目標としているという。こうした活動は市場価格の変動を抑える効果があるとの評価も一部にある。

ただし、業界関係者やアナリストの間では、CMRGの影響力には限界があるとの見方も根強い。世界的な供給と需要の基本的なバランスが価格形成の主要因であるとの指摘が多く、CMRGが完全に市場を支配することは難しいとされる。また、CMRGによる交渉が中国の鉄鋼メーカーにもたらす価格や条件の実質的改善はまだ明確とは言えない。

中国政府がこのような戦略を採る背景には、世界の鉄鉱石市場における従来の供給構造の変化がある。特に2028年以降、西アフリカ・ギニアのシマンドゥ鉄鉱山プロジェクトが世界供給の約7%を占めると見込まれており、中国企業はこのプロジェクトに大きな投資を行っている。この新たな供給源は、従来オーストラリアが圧倒的な供給力を持っていた市場構造を変える可能性を秘めており、中国側の交渉力を強化する材料となる。

鉄鉱石価格は2025年に入っても比較的堅調に推移しており、62%Fe基準の鉄鉱石先物価格は100ドル前後で取引されている。これは中国の需要が依然として世界市場に大きな影響を与えていることを示す一方、価格変動要因の多様性も示している。

総じて、中国のCMRGを通じた鉄鉱石市場支配の試みは、国際資源外交と国内鉄鋼産業支援という二重の政策目標を反映している。今後、世界の供給源多様化と大手鉱山企業との交渉の行方が市場動向を左右するとみられ、関係者は動向を注視している。

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