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豪、パプアニューギニアと「防衛条約」結べず、中国の影響力拡大

アルバニージー氏は「防衛条約」の締結を目指していたが、パプア側の事情で実現しなかった。
2025年9月15日/パプアニューギニア、首都ポートモレスビー、オーストラリアのアルバニージー首相(AP通信)

オーストラリアのアルバニージー(Anthony Albanese)首相は17日、訪問先のパプアニューギニアでマラペ(James Marape)首相と安全保障協議を行い、防衛に関する共同声明に調印した。

アルバニージー氏は「防衛条約」の締結を目指していたが、パプア側の事情で実現しなかった。

これは、同地域における中国の影響力を抑制することを目的としている。パプアニューギニアは中国に配慮した形だ。

マラべ氏は記者会見で中国の影響を否定。「中国はパプアニューギニア政府の安全保障と主権を尊重している」と強調した。

アルバニージー氏は15日の会見で、パプアニューギニアと相互防衛条約を結ぶと明らかにしていた。

両首脳は条約の代わり、防衛に関する共同声明に調印。「両国の内閣手続きを経て、文書が調印される」と共同声明を出した。

中国が南太平洋地域で影響力を拡大している動きは、21世紀に入ってから顕著になっている。この地域は島嶼国が多く、人口や経済規模は小さいものの、広大な排他的経済水域を有し、戦略的にも重要な位置を占めている。特に太平洋の海上交通路は米国やオーストラリアにとって安全保障上欠かせないものであり、中国の関与拡大は地域秩序に大きな波紋を投げかけている。

中国の影響力拡大の背景には、「一帯一路」構想に基づく経済外交がある。中国は港湾や道路、発電所、通信インフラなどの整備を通じて南太平洋諸国に資金と技術を供与し、経済的依存関係を強めてきた。例えばフィジーやパプアニューギニアでは大規模なインフラ事業が中国企業によって進められており、これらは現地の雇用創出や経済成長を支える一方で、返済能力を超えた債務問題を生み出す懸念も指摘されている。いわゆる「債務トラップ」外交の一環とみなされることも多い。

また、中国は外交的承認をめぐる争いにおいても南太平洋に強い関心を持ってきた。台湾と外交関係を維持する国が依然として存在するため、中国は経済援助や投資を”てこ”に台湾との断交を促してきた。2019年にはソロモン諸島とキリバスが台湾と断交し、中国と国交を樹立したことが象徴的である。これにより台湾は南太平洋での外交的立場を一層弱め、中国の影響力が確実に広がった。

さらに、安全保障面での関与も増加している。中国は警察官や治安部隊の訓練を提供し、監視機材を供与するなど、治安協力を通じて存在感を強めている。特に2022年、ソロモン諸島と中国が安全保障協定を締結したことは大きな衝撃を与えた。この協定は中国の警察派遣や軍事的支援を可能にする内容を含み、米国やオーストラリアは南太平洋に中国の軍事拠点が将来的に建設されるのではないかと警戒を強めている。

ソフトパワーの面でも、中国は積極的である。奨学金制度を通じて南太平洋の学生を中国へ留学させたり、医療チームを派遣して現地の医療支援を行ったりしている。また、中国の国営メディアはこの地域での発信を強化し、中国の発展モデルや「南南協力」を強調することで、現地の世論に影響を与えようとしている。

もっとも、現地諸国にとって中国の存在は必ずしも一方的な脅威ではない。経済規模が小さく資源に依存する島嶼国にとって、中国からの投資や援助は貴重な発展の機会となる。従来、オーストラリアやニュージーランドが支援の中心であったが、必ずしも十分ではなく、中国が新たな選択肢を提供することで、島嶼国は外交的な余地を広げることができるようになった。こうした「援助の多角化」は彼らにとって交渉力を高める手段となっている。

しかし同時に、中国への過度な依存が主権や経済の持続可能性を損なう危険も存在する。巨額の借款は返済負担を生み、天然資源の供給契約は一方的に中国側に有利な条件で締結される場合がある。また、治安協力を通じて政府の統制力が強まる一方、民主的統治や人権保障が後退するのではないかとの懸念も示されている。

米国やオーストラリアはこうした中国の進出に対抗するため、インフラ支援や安全保障協力を拡充している。特にオーストラリアは「太平洋家族」という枠組みを強調し、歴史的つながりを基盤に援助や協力を増やしている。米国も2022年に「米・太平洋パートナーシップ」を立ち上げ、複数の島嶼国と新たに外交関係を結ぶなど関与を深めている。日本やニュージーランド、さらにはフランスも加わり、中国の影響力に対抗する多国間の動きが広がっている。

中国の南太平洋における影響力拡大は経済、外交、安全保障、文化と多方面にわたる包括的な戦略の一環である。この地域は人口が少なく、国際政治の周縁にあるように見えるが、実際には海洋資源や安全保障の観点から大国にとって重要な意味を持つ。今後も中国と西側諸国との間で「援助競争」や「影響力の綱引き」が続くことは避けられず、南太平洋の島嶼国はその狭間で巧みに外交を展開しつつ、自国の利益を最大化しようとするだろう。こうした動きは、グローバルな大国間競争が地球規模に広がっている現状を象徴している。

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