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インド都市部で「超高速配達」急拡大、課題も

この「超高速配達」は、インドの都市部で急速に普及している新たな消費スタイルを象徴している。
インドカレーのイメージ(Getty Images)

インドの大都市では、家庭でカレーを作ろうとして必要な材料が足りないと気付いた瞬間に、わずか数分でその材料が玄関先に届くという光景が日常になりつつある。首都ニューデリー在住の女性タニシャ・シン(Tanisha Singh)さんはある朝、仕事に出かける前に弁当用のカレーを準備している途中でトマトがないことに気付き、スマートフォンの配達アプリで注文したところ、8分後には玄関の呼び鈴が鳴ったという。この「超高速配達」は、インドの都市部で急速に普及している新たな消費スタイルを象徴している。

このサービスは「クイックコマース(Quick Commerce / Q-Commerce)」と呼ばれ、通常のスーパーマーケットや遠隔の倉庫から配達するのではなく、住宅街の近隣に設置された小規模な倉庫「ダークストア(Dark Store)」から配達員が出発する仕組みを採用している。ダークストアは店内での買い物を前提とせず、注文が入ると即座にスタッフが商品をピックアップし、袋詰めして配達員に渡す体制が整えられている。これにより、都市部では10分前後という驚異的な配達時間が可能になっている。

こうしたサービスを提供する企業には「Blinkit」「Swiggy」「Instamart」「Zepto」などがあり、食品や日用品、飲料、さらには携帯電話や書籍など幅広い商品を扱うケースもある。ダークストア内は効率性を重視して商品が整然と並べられ、スタッフは注文通知を受けると即座に作業を開始する。注文から配達までのプロセスはきわめて迅速で、配達員は近距離を移動して顧客宅へ届ける。

だが、この利便性の裏では労働環境や報酬体系に関する問題も指摘されている。配達員の多くは企業と「パートナー契約(非正規)」を結ぶ形で働いており、固定給や社会保障はない。報酬は配達ごとの支払いとインセンティブによって決まるため、長時間労働を強いられることもある。ある配達員は1日に多数の配達をこなすことで追加報酬を得る一方、スマートフォンを紛失しただけでその日の収入が大きく減ると語っている。

クイックコマースが支持される理由は都市生活者の日常生活の変化にある。高密度な住宅環境や渋滞の激しい交通事情は日常的で、忙しい労働者や共働き家庭にとって、手軽に必要なものをすぐ手に入れられる点は大きな魅力となっている。また、これらのサービスはアプリ上で簡単に利用でき、支払いもデジタルで完結するため、利便性がさらに高まっている。

一方で専門家は、このような超高速配達の持続可能性について懸念を示す。環境負荷や交通渋滞の悪化、さらには労働者の安全と権利の保護といった課題が指摘されており、サービスの拡大とともに規制や労働条件の改善が求められている。利用者にとっては便利な一方、社会全体でその影響をどう受け止め、対応していくかが今後の重要なテーマになる。

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