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苦境に直面するベネズエラ人、ブラックフライデーの特売をスルー

現地の人々は、今回の静けさの原因がギャング間抗争や外部からの軍事的脅威ではなく、国を覆う深刻な経済的苦境にあると口をそろえる。
2025年11月28日/ベネズエラ、首都カラカス(AP通信)

11月28日、ブラックフライデーを迎えたベネズエラ・カラカスのモールは閑散としていた。店頭には「靴20ドル」「30%割引」といった表示が並んでいたが、客足は伸びていないようだ。

朝になっても、新しくオープンした店舗さえ人影はまばらだった。

現地の人々は、今回の静けさの原因がギャング間抗争や外部からの軍事的脅威ではなく、国を覆う深刻な経済的苦境にあると口をそろえる。

過去数年にわたる混乱が、「買い物を楽しむ」という消費よりも、「今日を生き延びる」「明日の食料や薬を確保する」という生きるための必需に価値を移させていた。

たとえば年金受給者や公務員など収入がある層でも、月収は約160ドル前後。多くの民間労働者の平均収入も200ドル台にとどまり、賃金は2018年以降、ほとんど上昇していない。

一方で、必需品の値上がりは著しく、先月発表された統計では年率インフレ率は270%に達していた。

家族が月々の生活必需品を確保するためには500ドル以上が必要とされるものの、最低賃金(時給)はわずか0.52ドルに設定されており、生計を維持するには到底十分とは言えない。

モールを訪れた26歳の女性は割引されたブーツ(通常60〜80ドル)の列に並ぶことを期待していた。しかし、パートナーとの世帯収入の10%以上を占める出費は「ぜいたくすぎる」と感じ、購入を見送った。

彼女はAP通信の取材に対し、「今は贅沢をする余裕なんてない。食べ物や必要なもののためだけにお金を使っている」と語った。

三つの仕事を掛け持ちする別の女性はモールを巡ったものの、どの割引も「お買い得」に感じなかったと漏らす。彼女は「靴を探すのは見栄かもしれない」「将来のことを考えても仕方がない」と述べた。

近年、マドゥロ政権下のベネズエラは、物価統制の緩和や市場開放を進め、外国通貨の流通を容認するなど経済改革を試みてきた。

しかし、インフレの抑制にはつながらず、通貨の暴落、実質賃金の落ち込み、物価の急騰が国民生活を直撃している。

こうした経済状況を背景に、今回のブラックフライデーは消費ではなく“慎重に使う”ことが優先される社会的な転換点を象徴するものとなったようだ。

米国による対ベネズエラ制裁や、違法薬物取引への軍事的な警告も報じられているが、多くの国民にとってはそれよりも、日々の不安定な物価と賃金の間で「食べ物を買えるか」「医療を受けられるか」がなにより重要だった。

買い物客が極端に少ないのは、そうした“生きることへの不安”が、娯楽的な消費を上回った結果だと見られている。

2025年のブラックフライデーはかつて流行した“割引”の象徴ではなく、国民の切実な生活苦と経済的な疲弊を映す鏡となった。

ベネズエラ社会が現在置かれている現実は、消費の享楽よりも、日々の“生きること”そのものに焦点を合わせざるをえない状況を浮き彫りにしている。

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