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米海兵隊がカリブ沖でマグロ船襲撃、ベネズエラ外務省が発表

トランプ政権はラテンアメリカの麻薬カルテルからの脅威と闘う取り組みの一環として、この海域にイージス艦など、4000人以上の部隊を派遣している。
2025年9月5日/ベネズエラ、首都カラカスの軍事基地、準軍事組織の戦闘員(AP通信)

ベネズエラ外務省は13日、米海兵隊員がベネズエラ海域を航行中のマグロ漁船に乗り込み、9人の漁師を拘束したと発表した。

ギル(Yván Gil)外相は記者団に対し、「ベネズエラのマグロ漁船が米海軍の駆逐艦によって違法かつ敵対的な行為を受けた」と語った。

またギル氏は「18人の海兵隊員が8時間にわたって船内に留まり、通信や漁師たちの活動を妨害した」と述べた。

このマグロ漁船はその後、解放されたという。

トランプ政権はラテンアメリカの麻薬カルテルからの脅威と闘う取り組みの一環として、この海域にイージス艦など、4000人以上の部隊を派遣している。

米海軍は今月初め、外国テロ組織に指定されているベネズエラの麻薬組織トレンドアラグアが運航する麻薬輸送船を空爆し、構成員11人を殺害した。

ギル氏は記者会見の中で、「この漁船は水産省から操業許可を得ていた」と説明。「こうした挑発行為を命じる者たちは、カリブ海での軍事的エスカレーションを正当化する事件を画策している」と述べ、「その目的はベネズエラにおける政権転覆である」と主張した。

米司法省は先月、マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領にかけている報奨金を5000万ドルに引き上げた。

ボンディ(Pam Bondi)司法長官はマドゥロ氏を「世界最大の麻薬密売人のひとり」と評し、麻薬カルテルと共謀した合成麻薬フェンタニルを混ぜたコカインを米国に大量に流入させていると非難した。

米国務省は2月、トレンデアラグアを含む中南米の8つの麻薬組織を外国テロ組織に指定した。

トレンデアラグアはベネズエラ北部アラグア州の刑務所で創設されたギャング。ベネズエラ当局は23年、この組織を解体したと発表したが、幹部の行方は分かっていない。

ベネズエラと米国の対立は20世紀後半から続く複雑な政治的、経済的、外交的緊張の集積であり、特に21世紀に入ってから顕著化している。この対立は資源の支配、イデオロギーの違い、地域的影響力を巡る競争といった複数の要因に根ざしている。

ベネズエラは20世紀前半から米国にとって重要な石油供給国であり、両国の関係は長らく経済的に密接であった。1950年代から1970年代にかけて、米国はベネズエラの政治や経済に強い影響力を持ち、石油を中心とした経済協力が進展した。しかし、1970年代後半以降、ベネズエラ国内の政治的変動や、米国の中南米政策への反発により、両国関係は徐々に緊張を孕むようになった。

1998年にチャベス氏が大統領に就任すると、ベネズエラは社会主義的な路線を強化し、米国との距離を意図的に拡大した。チャベス政権は「21世紀型社会主義」を掲げ、富の再分配や国家主導の経済政策を推進したほか、キューバやイランなど、米国と敵対的な国との連携を強化した。この過程で、ベネズエラの石油を外交の武器として活用する動きが顕著になり、米国側はベネズエラの反米的姿勢を警戒するようになった。両国間の関係は急速に悪化し、外交的な摩擦が増大した。

チャベス氏の死後、2013年にマドゥロ氏が大統領に就任。マドゥロ政権はチャベス氏の政策を引き継ぎ、国内統治の安定化を図ったが、経済危機、政治的混乱、人道的危機の深刻化に直面した。これに対し、米国はマドゥロ政権を独裁的で非民主的と批判し、経済制裁を強化した。特に石油産業に対する制裁はベネズエラ経済に甚大な打撃を与え、国民生活の悪化を招いた。一方で、マドゥロ政権は米国の干渉を強く非難し、国家主権の尊重を掲げる姿勢を示すとともに、ロシアや中国との経済・軍事協力を強化することで米国の圧力に対抗した。

2020年代に入ると、両国の対立はさらに深刻化した。米国はマドゥロ政権の退陣を求める一方、国際的な孤立化を進めた。これに対し、ベネズエラは反米的姿勢を維持しつつ、国際的に影響力を拡大する試みを続けている。国際社会では、米国とその同盟国がマドゥロ政権を非難する一方、ロシアや中国は経済・軍事的支援を通じてベネズエラを支援し、対立構造は国際的なものとなった。また、国連や国際人権団体は、ベネズエラ国内の人権状況や民主主義の後退を懸念し、外交的圧力を強化している。

今後の展望として、米国とベネズエラの対立は依然として解消の兆しを見せていない。米国が対話路線に転じる可能性もあるが、マドゥロ政権が譲歩するかは不透明である。また、経済危機や人道的危機の深刻化が続けば、国内の不安定要因が増大し、対立の長期化を招く恐れがある。国際社会の仲介や人道支援が重要であり、国連や地域機関が関与して持続可能な解決策を模索することが求められる。

ベネズエラと米国の対立は単なる二国間問題にとどまらず、地域的・国際的な影響を持つ重要な課題である。対立の解消には双方の対話と協力、そして国際社会の積極的な関与が不可欠であり、ベネズエラ国民の平和と繁栄を確保するためには、持続可能な解決策の追求が求められる。

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