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ベネズエラの原油在庫ほぼ満杯に、トランプ制裁で輸出できず

トランプ米政権が制裁対象の石油タンカーに対する封鎖措置を強化したことにより、輸出がほぼ停止状態となり、貯蔵スペースの逼迫(ひっぱく)から極端な対応を迫られている。
2025年12月29日/南米ベネズエラの海岸(ロイター通信)

ベネズエラの国営石油会社PDVSAは残留燃料(重質燃料油)の在庫が陸上貯蔵タンクでほぼ満杯となり、深刻な輸出障害に直面している。トランプ米政権が制裁対象の石油タンカーに対する封鎖措置を強化したことにより、輸出がほぼ停止状態となり、貯蔵スペースの逼迫(ひっぱく)から極端な対応を迫られている。

米政府の圧力キャンペーンはマドゥロ(Nicolas Maduro)大統領を追い詰めることを狙ったもので、制裁対象の石油タンカーがベネズエラの領海に出入りすることを阻止している。この措置により、特にアジア向けの高硫黄重質燃料油の積み出しが著しく減少し、輸出量は過去数週間で最低レベルに落ち込んだ。多くの船舶が制裁を恐れて接岸を回避し、出港予定だった貨物輸送も方向転換しているという。

ベネズエラは通常、国内で生産される超重質原油を淡水希釈して輸送し、複雑な精製プロセスで重質燃料を生成する。この重質燃料は主にアジア市場へ輸出される商品だが、封鎖による影響で25年12月の輸出は11月平均の約95万バレル/日から半分程度にまで減少したとされる。PDVSA資料や船舶データにもその傾向が反映されている。

現時点では陸上タンクに約2500万バレルの残留燃料が保管され、貯蔵能力の限界に近づいているとの指摘もある。このためPDVSAは、使用が中断されていたタンクの再稼働を図るとともに、西部地域の油廃棄プールへの残留燃料の移送を開始するなど、精製ユニットの停止を避けるための苦肉の策を講じている。これらは時間稼ぎに過ぎず、抜本的な輸出再開には至っていない。

PDVSAはコメントを出していないが、マドゥロ政権は石油の生産と輸出は継続すると強調している。ただ米当局はベネズエラ産原油を積んだタンカー2隻を押収するなど、船舶の拿捕(だほ)や差し押さえを続けており、封鎖措置は緩んでいない。

この状況は、2020年に米財務省がPDVSAの主要な取引先に制裁を科した後に続く同社にとって最も深刻な運営危機だと関係者は指摘する。当時は中間業者を介して中国への割当てを続けたが、今回は「影の船団」と呼ばれる匿名性の高い船舶を使った取引でも輸出が限定的な状況が続いている。

PDVSAは現在、原油や重質燃料をタンカー内に一時的に保管する「フローティングストレージ(浮体貯蔵)」戦略も採用しているが、これも限界が近いとの見方がある。国内の主要精製所(1日約95万バレル処理能力)の操業維持が困難になるリスクも指摘されている。

こうした輸出停滞は原油市場にも影響を及ぼしている。米国の制裁強化やベネズエラの輸出低迷を受けて地政学的リスクが高まり、原油価格の変動要因として意識される場面も出ているが、世界的な供給過剰感が依然として続いているとの見方もある。

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