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ブラジル最大の犯罪組織PCC(首都第一コマンド)とは

PCCは1993年にサンパウロ州の刑務所内部で生まれた小規模な囚人団体からスタートし、現在ではブラジル最大級の犯罪組織に成長している。
ブラジル、リオデジャネイロの機動隊(Getty Images)
起源・成立

PCC(首都第一コマンド/ポルトガル語で Primeiro Comando da Capital)は、1993年8月31日、ブラジル・サンパウロ州内の囚人8人によって、州立刑務所「タウバテ刑務所(Casa de Custódia de Taubaté)」付属の「ピラニャォン(Piranhão)」監獄内で結成された。
設立当初、彼らは1992年10月2日に発生した「カルアンジルー虐殺(Carandiru Massacre)」において、サンパウロ州軍警察が111人の受刑者を殺害した事件への報復・刑務所内の抑圧への抵抗を掲げていた。
当初は「犯罪政党(Partido do Crime)」とも呼ばれ、略称として“15.3.3”という符号も用いられた(ポルトガル語アルファベットで「P」が15番目、「C」が3番目であることから)。

組織構造・規律

PCCは、単なる“刑務所内ギャング”を超えて、自らを「囚人の団結体」「刑務所の不正と圧迫への抵抗運動」の位置づけで強化してきた。
その内部には、「規則(規律・忠誠・連帯)」を定めた“定款”や「45の行動規範」などといわれるルールが存在し、メンバー(収監中・未収監問わず)には遵守が義務付けられてきた。
また、刑務所内においては(そしてその外でも)“司法・立法・執行”を模した構造を独自に構築し、メンバー間の「内部裁判」や「報復制度」などを運用する“準国家的”な側面も指摘されている。

主な活動と収益源

PCCの主な収益源は、麻薬取引(特にコカインなど)であり、これに加えて以下のような犯罪活動も含まれる:

  • 貨物強奪(ロード貨物ハイジャック)

  • 銀行・強盗・破壊行為

  • 人質・誘拐・暴力集団による「徴税」(地域・囚人への“保護料”のような)
    さらに、刑務所・都市周辺のスラム(ファヴェーラ)支配、囚人ネットワークを通じた指令体制の構築なども、その影響力を示す典型例である。
    2006年5月には、サンパウロ州で「メガ抵抗事件(Megarrebelião)」と呼ばれる一連の攻撃がPCCの関与下で発生し、バス82台の放火、銀行17行の破壊、警察・警備員多数の死傷という大規模な事態となった。
    当時の報道では、PCCが “強力な組織構造(organised hierarchy)” を持つと述べていた。

支配域・活動地域の拡大

設立当初はサンパウロ州刑務所内の小規模なグループだったが、次第に州横断・全国規模・国際規模に拡大してきた。例えば:

  • サンパウロ州では、PCCが州内の刑務所の約90%を支配しているとの推計もある。

  • ブラジル国内では22州以上で活動しているという報告もある。

  • 国際的にも、パラグアイ、ボリビア、コロンビア、ウルグアイなど南米諸国を拠点とし、少なくとも28か国で活動するとの報告もある。
    このように、PCCは「全国に影響を及ぼす組織」「南米を横断する麻薬ルートの支配者」として位置づけられてきた。

指導者・近年の動向

PCCの中心的リーダーとして知られる人物がマルコス・ウィリアムス・エルバス・カマチョ(Marcos Willians Herbas Camacho、通称 “Marcola”)である。
彼の下で、PCCは刑務所外への活動拡大・マネーロンダリング・国際麻薬ネットワーク強化を進めてきた。
また、2024年・2025年において、米財務省がPCCおよび関係者を制裁対象に指定しており、PCCが「ブラジル最大の犯罪組織」「ラテンアメリカでも最も注視される麻薬取引組織の一つ」と位置づけられている。
さらに、近年では燃料・石油製品・フィンテック・ガソリンスタンドを使った大規模なマネーロンダリング疑惑も報じられており、犯罪経済の“合法経済への浸透”が深まっているとの分析もある。

社会・治安への影響

PCCの影響は主に次の3つの側面から理解できる。

  1. 刑務所制度への影響:PCCは刑務所内で団結体制を整え、暴動・脱走・支配構造を通じて刑務所秩序に強い影響を及ぼしてきた。

  2. 都市・地域社会への侵食:特にサンパウロ州などでは、スラム地域・周辺治安がPCCの影響下に置かれ、自治的な“犯罪統治”が生まれているという指摘もある。

  3. 国際麻薬・犯罪ネットワーク:ブラジル国内だけでなく、南米~欧州・アジアへと麻薬・マネーロンダリング・武器密輸ルートを持ち、国際的な法執行機関の注目対象となっている。
    このように、PCCは単なるギャングを超えて、複数の次元(刑務所・都市・国際)の治安・法秩序を揺るがす存在になっている。

課題・今後の展望

PCCに対する法執行当局の対策はいくつか存在するが、依然として次のような課題がある。

  • 刑務所の過密・劣悪な環境がPCCの結束・支配構造を助長してきた。

  • 組織が“準合法的”活動(マネーロンダリング、企業経営、国際取引)へ軸足を移しつつあるため、単純な警察・刑務所対策だけでは限界がある。

  • 組織のグローバル化・ネットワーク化が進んでおり、国内政策だけでは対応困難な側面が強まってきている。

  • 内部での権力抗争も観察されており、これは組織の分裂・暴力激化のリスクとなる。例として、内部の幹部たちが指導部への反旗を翻したとの報道もある。
    今後、PCCを抑えるためには、刑務所制度改革、社会経済的抑止、国際的な法執行協力、合法経済への犯罪浸透の防止、地域社会への支援など、多面的アプローチが不可欠とされている。

総括

PCCは1993年にサンパウロ州の刑務所内部で生まれた小規模な囚人団体からスタートし、現在ではブラジル最大級の犯罪組織に成長している。刑務所という閉鎖空間から発展し、全国・国際規模で麻薬取引、強奪、マネーロンダリング、地域支配、刑務所暴動といった多様な手段を駆使して「犯罪ネットワークの王国」を築きつつある。
その活動の広がりと深さは、単なるギャングという枠を超え、地域・国家・国際レベルで法と治安のシステムにとって重大な挑戦となっている。今後、PCCの動向を監視しつつ、効果的な対策を進めることが、ブラジルおよび地域の治安・統治にとって喫緊の課題である。

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