ペルー大統領が非常事態宣言、隣国チリから移民大量流入
背景には、チリで移民排斥の声が強まってきたことがある。
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ペルー政府は28日、同国南部の国境地帯において非常事態を宣言すると発表した。
これは隣国チリを北上する不法移民らの大規模な国境越えが相次いでいるためである。
ホセ・ヘリ(José Jerí)大統領は非常事態宣言と同時に、治安確保のため、国境沿いに展開している軍隊を増強すると表明した。
背景には、チリで移民排斥の声が強まってきたことがある。
チリでは来る12月14日の大統領決選投票を前に、最有力候補である右派のカスト(José Antonio Kast)元下院議員が不法移民の大量追放を公約に掲げ、移民排除を訴えるキャンペーン動画を公開した。
この動画でカスト氏は「正式な身分証を持たない移民に対しては、来たる政権発足後、強制送還を行う」と警告した。
この発言を受けて、チリ国内にとどまる多くの移民、特に母国の混乱から逃れてきたベネズエラ出身者らが、チリを離れてペルーを経由し第三国に逃れようと動き始めた。
だが、突然の流入により国境地帯では混乱が生じ、家族連れを含む多くの移民が、荷物をバックパックやゴミ袋に詰め込み北上を余儀なくされ、国境で足止めされる事態が続いている。
こうした状況に対応すべく、ペルー政府はまず国境警備を強化。ホセ氏は関係閣僚を招集し、非常事態宣言を承認、国境警備の強化を命じた。
ホセ氏はソーシャルメディア上で「国境を守る」と強調。今後の入国管理の厳格化と秩序維持を約束した。
一方で、国境の町や国際報道は、人道的観点からも懸念を示している。不法移民の多くは身分手続きが整っておらず、チリ国内での生活基盤が失われたため北上を試みた人々であり、追い返されることで故郷への帰還もままならない。
特に子どもや女性、障害を持つ人など脆弱な立場の人たちも多く、このまま放置されれば人道危機につながる可能性がある。
現時点で当局は、正確な移動者数や拘留・送還の統計は示していない。国境にとどまる「立ち往生」状態の移民の数についても明確な数字は発表されておらず、今後の動向と対策が注目される。
今回の非常事態宣言は南米における移民問題の深刻化と国家間の対応の難しさを示すシンボルとなった。
特に、政治的な排斥キャンペーンが移民の「逆流」を引き起こし、隣国の社会に新たな緊張をもたらすという、国境にまたがる人道・安全保障の課題を炙り出している。
今後、ペルーとチリ、さらには地域全体で、移民の人道的保護と国の治安維持という相反するニーズの間でどのような均衡が図られるかが焦点となる。
