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エクアドル選挙管理委員会、外国軍基地に関する国民投票を承認

エクアドルの人口は約1800万人。昨年の殺人認知件数は約8000件。人口10万人あたりの殺人件数は世界トップクラスである。
2024年1月8日/エクアドル、港湾都市グアヤキルの刑務所前(Getty Images)

南米エクアドルの選挙管理委員会は20日、ノボア(Daniel Noboa)大統領が提出した国民投票実施の要請を承認した。

ノボア氏はギャング暴力が激化する中、憲法改正案の是非を国民に問うことになる。

有権者は以下の二点を問われる。

①エクアドル国内における外国軍基地の駐留禁止規定を廃止すべきか②国家は政党への資金提供義務を免除されるべきか。

ノボア氏は今週初めに発令した政令で国民投票の実施を要請。同時に、国民が憲法制定議会を組織して憲法を改正すべきかどうかも問うべきだと表明した。

憲法裁判所は19日、憲法制定議会に関する国民投票の要請を差し止めた。この提案に関する訴訟は現在進行中である。

米国のルビオ(Maro Rubio)国務長官は今月初めにエクアドルを訪問。2000万ドル相当の安全保障支援を新たに提供すると発表した。

ルビオ氏はこの際、「エクアドルからの要請があれば、同国に軍事基地を設置することも検討する」と述べた。

ノボア氏は米軍の駐留を支持しているが、これには議会と国民投票での承認が必要である。

議会は現在、2008年に制定された外国軍基地の設置を禁じる法律の見直しを進めている。

米軍は以前、沿岸の都市マンタに基地を置いていたが、この法律を受け、2009年に撤退した。

ノボア氏は昨年、世界最大の麻薬組織シナロア・カルテルと同盟関係にあるロス・チョネロスのリーダーが港湾都市グアヤキルの刑務所から脱獄したことを受け、国家非常事態を宣言した。

このリーダーは最近逮捕され、米ニューヨーク州に送還された。

治安部隊は国家非常事態宣言後、全国で取り締まりを強化してきたが、ギャング間抗争が続く地域では暴力が激化している。

内務省の統計によると、25年1~7月末までの殺人認知件数は5268件で、前年同期から40%も急増した。

エクアドルの人口は約1800万人。昨年の殺人認知件数は約8000件。人口10万人あたりの殺人件数は世界トップクラスである。

米国務省はエクアドルの2大ギャングであるロス・チョネロスとロス・ロボスを「外国テロ組織」に指定している。

エクアドルにおける殺人件数の急増は近年の中南米における麻薬取引構造の変化と国家統治能力の脆弱性が複合的に作用した結果である。従来、エクアドルはコロンビアやペルーといった麻薬主要生産国に隣接しながらも、相対的に治安が安定している国と見なされてきた。しかし、2020年代に入ると状況は急速に悪化し、殺人件数が爆発的に増加するに至った。その背景には複数の要因が重なっている。

第一に、国際麻薬市場の構造変化がある。コロンビアでは麻薬カルテルや武装組織の再編が進み、従来の取引ルートが混乱した。その結果、麻薬輸送において新たな拠点が必要となり、地理的に有利で港湾インフラを備えたエクアドルが中継地として注目されるようになった。特に太平洋岸の港湾都市グアヤキルはバナナ輸出が盛んであることから物流網が整備されており、欧州市場へのコカイン輸送の拠点となった。これによって、エクアドル国内に麻薬組織が流入し、縄張り争いが激化した。

第二に、国内ギャング組織の台頭が治安悪化を加速させた。もともとエクアドルには中小規模の犯罪組織が存在していたが、国外カルテルの資金や武器供給を受けて急速に勢力を拡大した。代表的なのがロス・チョネロスといったグループであり、これらは刑務所内部にまで勢力を広げている。エクアドルでは刑務所が事実上ギャングの拠点化しており、受刑者間の抗争が頻発し、数百人規模の死者を出す虐殺事件も発生している。刑務所での抗争は街頭での抗争と連動し、報復の連鎖によって殺人件数が跳ね上がっている。

第三に、国家の統治能力の限界が露呈した。エクアドル政府は治安対策として警察や軍を動員し、緊急事態宣言を発令してきたが、腐敗や資源不足により十分な効果を上げられていない。警察の一部は麻薬組織と癒着しており、武器や情報が犯罪組織に流れる事例も後を絶たない。さらに司法制度の遅延や収賄もあり、犯罪者が容易に釈放されることで暴力の抑止力が失われている。このような統治の空洞化が、犯罪組織に活動の余地を与えている。

第四に、経済的要因も無視できない。エクアドルはコロナ禍以降、失業率や貧困率が上昇し、若年層を中心にギャングへのリクルートが増えた。高収益を誇る麻薬取引や違法活動は、社会的に排除された若者にとって「唯一の生計手段」として機能し、組織犯罪の拡大を支えている。また、経済的困窮による社会不安は治安悪化と相互に作用し、殺人件数の上昇を加速させている。

第五に、地政学的要素も影響している。米国や欧州は麻薬対策を強化し、従来の輸送ルートに圧力をかけてきたが、その副作用として新たな経路としてのエクアドルの重要性が高まった。結果として、メキシコのシナロア・カルテルやハリスコ新世代カルテルなど、国外の大規模麻薬組織がエクアドル国内のギャングと提携し、輸送ネットワークを支配するようになった。この国際的連携が暴力の規模と残虐性を一層深刻化させている。

さらに、政治的要因も殺人急増に拍車をかけている。エクアドル国内の政情不安、政府の権力基盤の弱さは治安政策の一貫性を欠かせ、組織犯罪に対抗する戦略を不安定にしている。歴代政権は治安強化を掲げてきたが、持続的な制度改革や社会経済政策と結びつかず、短期的な軍事動員にとどまっているため効果は限定的であった。

結果として、エクアドルは「麻薬戦争の新たな前線」と化し、2021年以降の殺人件数は過去最高を更新し続けている。国連や地域機関の統計によると、人口10万人あたりの殺人率は中南米の中でも急激に上昇しており、かつて比較的平穏だった国が一気に暴力多発国家に転じたと評価されている。

エクアドルにおける殺人件数の急増は、国際麻薬市場の変化による地理的役割の増大、国内ギャングの勢力拡大、統治機構の脆弱性、経済的困窮、国際カルテルとの連携、政治的不安定といった要因が複雑に絡み合った結果である。この構造は短期的な取り締まりで解決できるものではなく、司法改革や社会的包摂、国際協力を含む長期的な政策が不可欠である。しかし現状では暴力の連鎖が止まる兆しは乏しく、エクアドルは中南米における新たな治安危機の震源地として国際社会の注目を集め続けている。

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