COP30閉幕、「化石燃料」への直接的な言及回避
COP30は「実施のCOP」という宣言の下、理念から行動への転換を図る重要なステップを打ち出そうとした。一方で、化石燃料段階除去の明確な義務化を避けるなど妥協が目立ち、「期待外れ」との批判も根強い。
と関係者たち(AP通信).jpg)
現状(2025年11月時点)
COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)は2025年11月10日–21日にブラジル・ベレン(Belém)で開催された。
議長国ブラジルは、この会議を「実施(Implementation)のCOP」と位置づけ、「ムチロン(mutirão)」(協働・共同作業)というキーワードを掲げ、実践重視・行動重視の枠組みをつくる意図を示していた。
一方、国連のグテレス事務総長は開会宣言で、地球平均気温上昇を1.5℃以内に抑える目標の達成が危機的であるとの警鐘を鳴らし、“科学に従い、人々を利益より優先すべきだ”と強く訴えた。
交渉は難航し、最終日は議論が長引いた。報道によると、石油・ガス産出国などの反発が強く、重要テーマで妥協が必要だった。
会議中には火災が発生し、一時建物の避難やスケジュール遅延があった。
11月22日に合意文書採択
最終的に、11月22日にCOP30の合意文書が採択された。
採択には約200カ国が関与し、気候変動対策の加速や、特に適応(adaptation)分野への資金支援を強化する内容が盛り込まれた。
ただし、石炭・石油・ガスなど「化石燃料」の段階的廃止(フェーズアウト)を明示する道筋(ロードマップ)については、強制力ある文言を盛り込むには至らず、弱められた表現での合意にとどまった。
主要な合意点
COP30合意の主なポイントは以下の通り。
適応資金の大幅強化
先進国に対して、途上国への適応支援(気候変動の影響に対処する能力強化)資金を2035年までに2025年比で3倍に増額することが呼びかけられた。
具体的には年間約1,200億ドル規模(Bloomberg等による)への増額が示唆される。行動加速のための自主的メカニズム
加盟国に対し、既存の国別貢献(NDC=Nationally Determined Contributions)の強化や実施を促す「自主的イニシアティブ」を加速させる枠組みが打ち出された。Just Transition(公正な移行)メカニズム
化石燃料労働者や地域、人権・先住民族などへの包摂を考慮した、公正な移行(エネルギー転換)の制度が盛り込まれた。ジェンダー行動計画(Gender Action Plan, GAP)
COP30で新たなGAP(Gender Action Plan)を承認し、気候政策における女性・ジェンダー視点を次の9年間優先する枠組みを設けた。マルチステークホルダー協力の強化
政府だけでなく、地方自治体、企業、市民社会など多様なアクターを巻き込んだ「行動アジェンダ(Action Agenda)」が強調された。持続可能燃料(サステナブル燃料)強化
持続可能な燃料(バイオ燃料、合成燃料、水素など)の拡大を目指すイニシアティブが発表され、「Belém 4X」と呼ばれる枠組みが登場。
パリ協定の目標達成に向けた対策の加速
COP30はパリ協定で掲げられた「1.5℃目標」の実現に向けて、科学に沿った行動をさらに加速させる必要性を強調する場となった。グテレス事務総長は、“1.5℃を超えることは道義的な失敗”と警鐘を鳴らしている。
各国に対し、新しいNDCの提出や、既存の貢献を「実行」に移すことを促す文言がある。これによってパリ協定の目標達成に向けた実際の行動を強める圧力がかけられた。
また、COP30の「行動アジェンダ(Action Agenda)」には、農業、土地再生、水素や合成燃料など具体的分野ごとのソリューションが盛り込まれており、「理論上の目標」から「実践への転換」を図る構造が強まっている。
適応資金の目標
合意文書では、適応資金を2035年までに3倍に増額する目標が掲げられている。
この目標は、多くの途上国が現在危機的な気候影響に直面しており、資金支援を切実に求めてきたことを踏まえたものである。
ただし、気候ネットワークなど市民社会からは、財源の明確さや実際の資金流れが弱いとの批判も出ている。CAN(Climate Action Network)は、適応資金の強化が不十分で、特に被害を受けやすいコミュニティへの支援に期待が裏切られたと指摘。
また、この資金増強目標を現実化させるには、新たかつ革新的な資金メカニズムが必要とも言われており、COP30では適応推進のための知識共有や国別プラットフォーム強化に向けた構想が打ち出された。UNDPとCOP30議長団は「国別適応計画実施アライアンス(National Adaptation Plan Implementation Alliance)」を発表。
多国間協力の維持
COP30では、多国間協力の重要性が再確認された。従来の国際制度(国家間協定)だけでなく、地方自治体、企業、市民社会などを巻き込む「アクション・アジェンダ(Action Agenda)」が中心に据えられた。
特に、地方自治体や市レベルでの気候対策が交渉の場でも重視された。COP30議長国ブラジルが掲げたムチロン(mutirão)は、こうした協働精神を象徴している。 ICLEI Japan
また、公共・民間パートナーシップを通じた具体的なイニシアティブも複数立ち上げられている。たとえば、低・排出アンモニア農業用肥料(LEAF)構想や持続可能航空燃料(SAF)関連の取り組みが、COP30行動報告に記載されている。
ジェンダー行動計画
COP30で採択された新しいジェンダー行動計画(GAP:Gender Action Plan)は、気候行動において女性やジェンダー視点を強く位置づける。
WEDO(Women’s Environment & Development Organization)などの市民団体は、このGAPが「フェミニスト分析を実行政策に結びつけ、ジェンダー平等を中心に据えた気候行動につなげる重要なツールになる」と評価している。
ただし、交渉過程では資金確保や代表性、参加手続きなどをめぐって意見の対立があった。CGIAR(国際農業研究機関)の視点では、特に発展途上国ではGAPの実効性を担保する資金が不足する懸念がある。
意見の対立と課題
COP30では以下のような深刻な対立点と課題が浮き彫りになった。
化石燃料への直接言及回避
最大の対立点の一つは、化石燃料(石油・ガス・石炭)の「段階的廃止ロードマップ」。多くの国が具体的なフェーズアウトの義務化を求めたが、石油産出国を中心に強い反発があり、最終文書では強制力のあるフェーズアウト計画は盛り込まれず、議論は「外交的対話」などの弱い表現にとどまった。資金提供の公平性・タイミング
途上国は資金を早急に必要としているが、合意された資金増額目標(適応3倍)への道筋や実際の資金配分が不透明だと批判される。CANなどは、「期待を裏切る弱さ(dangerously weak)」と警戒する。GGA(Global Goal on Adaptation)指標
適応能力・強靱性・脆弱性というGGAの進捗を測る指標設定も交渉の焦点だった。IGESなどの専門家は、100項目近い指標の合意が必要だと指摘してきた。
しかし、一部途上国からは合意された指標が「測定不能・使えない」といった意見もあった。正義(Justice)と責任
Just TransitionやGAPといった正義指向の枠組みが盛り込まれた一方で、資金提供の責任(歴史的排出責任を持つ先進国がどれだけ支援を出すか)や、被害を受けている国々への即時支援(損失・被害への対応、Loss and Damage)について、「もっと緊急性のある対策が必要」との声が根強い。CANはその点を強く批判している。
「化石燃料」への直接的な言及回避
COP30合意文書では、石油・ガス・石炭といった化石燃料の段階的廃止(phase-out)に関する具体的な戦略を定める項目は盛り込まれなかった。
一方で、いくつかの草案や交渉ドラフトには「Belém Transition Compass」(ベレン移行コンパス)という、将来的なフェーズアウトに向けた外交的な道筋を議論するという案もあったが、それは最終合意文書では強制義務ではなく、自主的・任意の対話枠組みとして残された。
この回避は、多くの気候正義/環境団体から「不十分」「化石燃料依存からの本格転換を拒む妥協」との批判を招いている。
資金提供の公平性
適応資金3倍の目標設定は注目されたが、財源や支払いの具体化には不明瞭さが残る。
特に、途上国(グローバル・サウス)からは、この資金増強が「公平性」(歴史的責任・被害国としての支援)に見合ったものではないという不満がある。CANは、先進国がより大きな責任を負うべきと主張。
また、財政負担をめぐる政治的緊張も強く、合意文書の実効性、資金拠出の遅れや実際の配分方法などが今後の大きな課題となる。
批判・「期待外れ」との声
多くのNGO、気候正義団体、市民社会は今回の合意を「不十分」「妥協に甘んじたもの」と批判している。特に適応資金の強化は歓迎される一方で、化石燃料段階除去の強い言及がないこと、ロードマップが明確でないことに失望がある。
また、一部の国・活動家は、「科学(1.5℃目標)を軽視した」合意だと指摘。「温暖化を遅らせるのではなく、先送りしているだけだ」という声も出ている。
特に、化石燃料大国の反発により段階的廃止の明文化が阻まれた点は、多くの若者や活動家から「歴史的責任を果たさない妥協」と強く非難されている。
今後の展望
COP31以降への道筋:化石燃料段階除去に関する議論はCOP30で明確な合意に至らなかったが、ベレンで提案された「Belém Transition Compass」は、COP31(予定地などを通じて継続議論される可能性がある)を舞台に持ち越される見通し。
資金実行と透明性:資金目標を設定した一方で、実際の財源確保と配分の仕組み構築が急務となる。途上国の要求を踏まえつつ、資金流れを可視化するための制度設計が焦点になる。
適応・GGAのモニタリング強化:GGA(Global Goal on Adaptation)指標の合意は進んでいるが、今後の実施・モニタリングに向け、100項目指標の運用性・測定可能性をめぐる議論が続く。
ジェンダー行動計画の実践化:GAPが合意されたが、資金や具体的政策への反映、国別・地域別実行を確保するための仕組み(報告・アカウンタビリティ)が重要になる。
多層ガバナンスとイノベーションの拡大:COP30で示された非国家アクター(企業、自治体、市民社会)との協働路線と行動アジェンダは、今後も重要性を持つ。特に技術・資金・制度イノベーションを通じて、気候対策を加速させる方向が鍵となる。
正義と責任の再検討:Just Transitionや資金公平性をめぐる不満を受け、先進国の責任と途上国への支援の在り方を巡る議論が深化する可能性が高い。
総括
COP30は「実施のCOP」という宣言の下、理念から行動への転換を図る重要なステップを打ち出そうとした。一方で、化石燃料段階除去の明確な義務化を避けるなど妥協が目立ち、「期待外れ」との批判も根強い。
適応資金の大幅強化やジェンダー行動計画、公正な移行メカニズムなど、重要な前進点はあるが、その実効性と公平性を巡る課題が残る。今後はCOP31以降でこれら論点を具体化・制度化し、パリ協定の目標達成に向けた実践をどう加速するかが試される。
