コロンビア大統領がトランプ政権を非難、麻薬戦争協力国指定巡り
トランプ政権は15日、コロンビアを麻薬取引対策における国際的義務を果たしていない国に指定。コカイン取引対策の進展不足についてコロンビア政府を非難した。
とコロンビアのペトロ大統領(Getty-Images).jpg)
南米コロンビアのペトロ(Gustavo Petro)大統領は16日、米国政府がコロンビアを麻薬戦争協力国リストから除外したことに反発した。同国がこのリストから外されたのは30年ぶりである。
元左翼ゲリラのペトロ氏はX(旧ツイッター)に声明を投稿。来年大統領選挙を控える中、「米国がコロンビアへの政治介入を図り、傀儡大統領を探している」と非難した。
またペトロ氏は「コロンビア国民が米国の傀儡大統領を望むか…それとも自由で主権ある国家を望むかは、国民が決める」と書いた。
別の投稿では「我々は米国の利益に屈服せず、コカ栽培農民が暴行を受けることも許さない」と付け加えた。
トランプ政権は15日、コロンビアを麻薬取引対策における国際的義務を果たしていない国に指定。コカイン取引対策の進展不足についてコロンビア政府を非難した。
この指定取り消しの背景にはトランプ(Donald Trump)大統領とペトロ氏との関係悪化がある。
ペトロ政権と米国との関係は従来のコロンビア・米国間の緊密な同盟関係に一定の変化をもたらしてきた。ペトロ氏は2022年6月に就任した左派指導者であり、これまでのコロンビア政権が重視してきた米国との安全保障・経済面での密接な協力に対し、独自の外交・内政路線を打ち出していることが特徴である。ペトロ政権は国内の社会的不平等や環境問題、麻薬撲滅政策の再構築を重点課題として掲げており、これが米国との関係に影響を及ぼしている。
まず安全保障面における変化が挙げられる。従来、コロンビアは米国にとって南米における戦略的同盟国であり、対麻薬戦争や左翼ゲリラ組織FARCとの内戦において米国の軍事・情報支援を受けてきた。ペトロ政権は就任後、軍事協力を完全に拒否する姿勢ではないものの、米国依存の安全保障政策を見直す意向を示している。特に、米国主導の麻薬取締りや治安強化策に対しては、軍事的手段中心のアプローチよりも、社会福祉や農業振興を通じた犯罪防止策を重視する方針を打ち出している。具体的には、麻薬原料作物の代替作物政策の拡充や、貧困地域への教育・雇用支援を通じた麻薬依存の減少を図ろうとしており、米国の従来型の対麻薬支援との調整が必要となっている。
経済面でも米国との関係は微妙なバランスにある。2012年に発効した米コロンビア自由貿易協定(FTA)は、コロンビアの主要輸出市場である米国との経済的結びつきを強化したが、ペトロ政権は国内産業の保護や社会的格差是正を重視する政策を掲げ、自由貿易協定の見直しや労働・環境基準の強化を要求する場面もある。このため、米国側からは貿易・投資の安定性に関する懸念が示されており、両国間で経済政策の調整が必要とされる局面が生じている。
外交面では、ペトロ政権は従来の米国重視から多極的外交へのシフトを図ろうとしている。南米地域の統合や国際的な環境政策、気候変動問題に積極的に関与する姿勢を示しており、米国だけでなく、EUや中国、メキシコ、キューバなどとも独自に関係を構築している。特にベネズエラとの関係改善や国境地域の経済・治安協力を重視する姿勢は、米国が従来取ってきた対ベネズエラ圧力政策と微妙な緊張を生む場合がある。ペトロ氏はベネズエラとの対話を通じて地域安定を目指す方針を示しており、米国との協調関係を維持しつつも、一定の外交的自主性を確保しようとしている。
また、国内政治の影響も米国との関係に反映されている。ペトロ政権は左派的改革を進める中で、土地改革や社会保障拡充、環境保護政策を積極的に推進しており、これらの政策は一部の米国企業や投資家にとって利益相反となる可能性がある。そのため、米国側はペトロ政権の改革動向を注視しており、特にエネルギー・鉱業分野での規制強化や環境政策の厳格化は米国企業の投資戦略に影響を与えかねない。
ペトロ政権と米国との関係は、従来の「安全保障と経済の密接な依存関係」から、より調整を重視した関係へと移行しつつある。米国との軍事・経済協力は維持される一方で、ペトロ政権は外交・内政の自主性を強化し、社会政策や環境政策を優先する姿勢を示している。今後も麻薬対策や経済協力、地域外交を巡る両国間の調整が重要な課題となると考えられる。ペトロ政権は米国との伝統的同盟関係を尊重しつつも、国内改革と多極外交の推進を両立させることで、新たなコロンビアの国際的地位確立を目指しているといえる。