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ベネズエラの「カルテル・デ・ロス・ソレス」、知っておくべきこと

米国務省は24日、ベネズエラのカルテル・デ・ロス・ソレス(太陽のカルテルの意)を外国テロ組織に指定した。
ベネズエラのマドゥロ大統領(Getty Images)

米国務省は24日、ベネズエラのカルテル・デ・ロス・ソレス(太陽のカルテルの意)を外国テロ組織に指定した。

カルテル・デ・ロス・ソレス(Cártel de los Soles、直訳すると太陽のカルテル)とは、ベネズエラにおいて、高級将校を中心とした軍・治安部門と国家権力が深く結びついた、事実上の組織犯罪ネットワークを指す通称である。伝統的な麻薬カルテル(中央集権的な組織構造を持つ麻薬密輸組織)というよりは、汎用的な用語であり、国家機構と犯罪活動との癒着を表現する政治的・報道的レッテルとして用いられてきた。


起源と名称の由来

この呼称は1993年ごろに始まったとされ、その典拠として、当時国家警備隊の反麻薬部隊司令官であったラモン・ギレン・ダビラ大将とオルランド・ヘルナンデス・ビリガス将軍が麻薬取引で告発された事件がある。
彼らは将校階級の肩章(チュラテラ)に「太陽(sol)」の紋章をつけており、その象徴から「太陽(ソル)」という語が用いられ、最初は「カルテル・デル・ソル(Cartel del Sol)」と呼ばれた。
その後、より高い階級(将官)が関与する疑いが出てきて、二つ以上の「太陽(ソル)」紋章を持つ将官の関与も指摘されるようになり、「カルテル・デ・ロス・ソレスという名称が定着した。


組織の構造と実態

カルテル・デ・ロス・ソレスは明確な組織構造を持つ単一の犯罪組織ではなく、複数の「細胞(セル)」からなる緩やかなネットワークという指摘がある。
主にベネズエラの軍、国家警備隊、空軍、海軍などの高級将校らが関与しており、各セルが比較的独立して活動していると考えられている。
彼らの犯罪活動には、コカインなどの麻薬密輸だけでなく、違法採掘(黄金やコルタンなどの鉱物資源)、燃料の密輸、不正な金の流れ、マネーロンダリングなどが含まれている。
特に麻薬については、当初はブラ抜き(賄賂)や黙認が主だったが、次第に将校自らが密輸や保管、流通の役割を担うようになったと報じられている。
また、外部の反乱勢力(例:FARC、ELNなど)や他の麻薬カルテル(例:メキシコのシナロア・カルテル)との結びつきも指摘されており、国際的なネットワークが存在する可能性も報じられている。


政治との結びつき

カルテル・デ・ロス・ソレスは単なる犯罪組織という枠を超え、国家権力の一部として機能しているとの見方が強い。高級軍人や国家幹部が関与することで、政府とカルテルの境界が曖昧になっており、国家そのものが犯罪構造に深く侵食されているという批判がある。
米国などの国際社会は、カルテル・デ・ロス・ソレスをベネズエラ政権(特にマドゥロ政権)と結びつけて非難してきた。
2025年11月には米財務省がこのネットワークを「特別指定グローバルテロリスト(Specially Designated Global Terrorist)」として制裁の対象とし、11月24日、米国務省が正式に「外国テロ組織(Foreign Terrorist Organization, FTO)」に指定した。
米国側はカルテル・デ・ロス・ソレスが他のテロ組織(例:Tren de Aragua、シナロア・カルテル)と協調し、麻薬密輸や資金支援を通じて西半球全体で「テロ活動」を支えていると主張している。
これに対しベネズエラ政府は強く反発し、「存在しない架空の組織」として米国の介入の口実だと非難している。


論争点と批判

カルテル・デ・ロス・ソレスの最大の論争点は、「本当に統制されたカルテル(明確なリーダー/常設組織)か否か」という点だ。ジャーナリストや分析家のなかには、これを「比喩的なラベル」であり、実際には一致団結したカルテルではなく、国家の腐敗した部分を指す総称だと主張する者もいる。
たとえば、ある研究者は「定例会議を開くような幹部会は存在せず、左手が右手の活動を詳細に知らないほど分散化している」と指摘している。
また、米国のテロ組織指定は、政治的な戦略として使われている可能性もあるとの批判がある。
一方、このネットワークの存在自体を否定しない専門家も多く、高級将校による犯罪行為、麻薬や鉱山資源を通じた資金調達の実態が相当深刻だと見る分析も多数ある。


現在の状況と国際的影響

米国によるテロ組織指定は、カルテル・デ・ロス・ソレスに対して金融制裁や法的圧力を強めることを可能にしており、ベネズエラ政権への国際的制裁が一段と厳しくなっている。
この動きは、マドゥロ政権に対する米国の圧力の一環とみなされており、軍関係者を含む関与者への資産凍結や渡航禁止なども実施されている。
また、ベネズエラ国内での不正資源採掘(違法鉱業)や燃料密輸といった活動も国際的注目を集めており、政治・経済・安全保障の交錯点にある問題として、多くの国が警戒感を強めている。

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