ブラジル、気候変動と貿易問題の新たな協議機関提案へ
EUの森林破壊防止法と炭素国境関税は、環境保護や気候変動対策において強力なツールであると同時に、国際貿易に新たなルールとコストをもたらす。短期的には途上国や輸出依存国にとって厳しい措置となり、摩擦や紛争を引き起こす可能性が高い。
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ブラジル政府は「気候政策」が貿易に与える影響について各国政府が協議する新たな機関の創設を提案する方針だ。現地メディアが10日に報じた。
これは世界貿易機関(WTO)や国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)がこれまで対応できていない課題について議論する予定である。
ブラジル、南アフリカ、インドなどの新興経済国はEUが環境政策を通じて貿易を制限しようとしていると非難している。例えば、12月に発効予定の森林破壊に関連する輸入禁止措置などが挙げられる。
途上国は過去のCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)でこの問題を議題に載せようと幾度か試みたが、EUは貿易問題はWTOで議論すべきと主張してきた。
11月にCOP30を主催するブラジルはこの膠着状態を打破しようとしている。
ロイター通信は関係者の話しとして、「COP30のド・ラーゴ(Andre Correa do Lago)議長が来週開催されるWTO年次フォーラムでこの提案を行う」と報じた。
その目的は十分な支持を集め、11月のCOP30までに新機関を設立し、メンバーを確定させることとしている。
EUが導入を進めている「森林破壊防止法(EUDR)」と「炭素国境調整メカニズム(CBAM、通称・炭素国境関税)」は、環境・気候変動対策を強化する政策であると同時に、国際貿易の構造に大きな影響を及ぼす措置である。2つはいずれも2020年代半ばに本格施行が予定されており、世界の供給網や貿易ルールにおいて大きな転換点をもたらすと見られている。
まず森林破壊防止法はEU域内で販売される木材、大豆、パーム油、カカオ、コーヒー、ゴムなどの農産品、あるいはそれらを含む製品について、供給元で森林破壊が行われていないことを証明する義務を輸入業者に課すものである。
企業は生産地の地理情報や追跡可能性を示し、森林伐採や劣化を伴わない形で生産されたことを確認しなければならない。違反すれば高額な罰金や市場からの排除が科されるため、供給業者や輸入企業は新たな管理体制や監査を導入せざるを得ない。特にブラジルやインドネシアなど、森林伐採を背景に農産物輸出を拡大してきた国々には大きな影響が及ぶ。
こうした規制は、持続可能性基準を満たさない業者を市場から締め出す効果を持ち、結果として環境保全には資するが、途上国の小規模農家や輸出依存国にとっては大きなコスト増や市場喪失のリスクとなる。
一方、炭素国境調整メカニズムは、2026年1月から鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力といった高排出産業を対象に、本格的に課金が始まる制度である。
これは、EUが域内で厳しい排出規制と炭素価格を導入している一方、規制が緩い国からの輸入品が「炭素リーケージ」を引き起こし、安価に市場を席巻するのを防ぐことを目的としている。輸入業者は対象製品の炭素排出量を申告し、それに応じた「汚染料金」を支払う必要がある。これによりEU域内産業の競争力を守りつつ、域外の生産者にも排出削減を促す仕組みとされている。
この制度がもたらす国際貿易への影響は多面的である。まず、鉄鋼やセメントといった基礎素材の輸出でEU市場に依存してきたトルコ、インド、中国、ロシアなどにとって、輸出コストが上昇するのは避けられない。特に炭素集約的な生産方式を維持している国々では、EU向け輸出が採算割れする可能性があり、EU市場から締め出されるリスクもある。
その一方で、クリーン技術や再生可能エネルギーを導入して低炭素化を進めている企業にとっては競争上の優位性が生まれる。つまり、CBAMは世界的に脱炭素化投資を加速させる圧力として作用する。
また、これらの制度はWTOルールとの整合性という問題も孕んでいる。EUは環境保護を理由に正当化を図っているが、途上国を中心に「事実上の保護主義」との批判が強い。特に森林破壊防止法については、EUが一方的に定めた基準が途上国の発展の道を狭めるという不満が表明されている。
CBAMについても、国際協定で認められていない「炭素輸入税」として争われる可能性が高い。各国が独自に同様の規制を導入すれば、世界の貿易体制が分断されるリスクもある。
さらに、国際企業にとっては新たなコンプライアンス負担が大きい。森林破壊防止法ではサプライチェーンの追跡・認証コストが急増し、CBAMでは排出量の測定・報告体制を整備する必要がある。こうした負担は大企業には対応可能だが、中小企業や途上国の生産者にとっては大きな障壁となり得る。このため、サプライチェーンの再編が進み、EU市場へのアクセスを確保できる生産者が淘汰される一方で、新しい市場構造が形成されると予想される。
結論として、EUの森林破壊防止法と炭素国境関税は、環境保護や気候変動対策において強力なツールであると同時に、国際貿易に新たなルールとコストをもたらす。短期的には途上国や輸出依存国にとって厳しい措置となり、摩擦や紛争を引き起こす可能性が高い。
しかし長期的には、世界の生産・貿易の在り方を持続可能な方向へと誘導する契機となる。各国がEUの動きに対応し、自国の環境政策や貿易戦略を再設計するかどうかが、今後の国際経済秩序の行方を大きく左右するといえる。