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25年9月ブラジル産牛肉の米国向け輸出さらに減少=業界団体

ブラジルは世界最大の牛肉輸出国である。ブラジル産牛肉の最大の取引先は中国、2位が米国であったが、トランプ関税の影響で状況は一変した。
ブラジルの牧場(ロイター通信)

ブラジル産牛肉の25年9月の米国向け輸出量がトランプ政権の関税引き上げにより、さらに減少する見通しである。ブラジル牛肉輸出業協会(ABIEC)が17日、明らかにした。

それによると、9月の輸出量は7000トンを下回る可能性があるという。8月は約9000トンであった。トランプ関税発効前の月平均は3万トンである。

トランプ(Donald Trump)米大統領はブラジルの盟友ボルソナロ(Jair Bolsonaro)前大統領が「魔女狩り裁判」にかけられているとして、この裁判を打ち切るよう要求。先月初めにブラジルの関税率を50%に引き上げた。

ブラジルは世界最大の牛肉輸出国である。ブラジル産牛肉の最大の取引先は中国、2位が米国であったが、トランプ関税の影響で状況は一変した。

1~7月期におけるブラジルの牛肉輸出先上位4カ国は中国、米国、チリ、メキシコであった。

米国ではブラジル産牛肉の価格が少しずつ上昇している。

トランプ政権発足後、米国は通商政策において再び強硬姿勢を鮮明にした。その象徴的な措置の一つが、ブラジルからの輸入品に対して一律50%の関税を課すという決定である。この政策は、中国や欧州諸国との摩擦に比べれば国際社会での注目度はやや低いが、米国経済に与える影響は決して小さくない。

まず農業分野への影響が最も顕著である。ブラジルは米国と並ぶ大豆輸出大国であり、特に畜産業で必要となる飼料用大豆の供給元として国際市場で大きな存在感を持つ。米国は自国でも大量に大豆を生産しているが、価格変動や輸送コストの兼ね合いから、一定程度ブラジル産に依存してきた。50%の関税が課されれば、ブラジル産大豆やトウモロコシの輸入コストは急騰し、畜産農家の負担が増加する。結果として牛肉や豚肉、鶏肉の価格が上昇し、消費者物価に直接波及する可能性が高い。これはインフレ圧力を強め、米国経済にとって痛手となる。

次に製造業に目を向けると、ブラジルは鉄鋼やアルミニウムの供給国として重要な役割を担ってきた。これらの資源は自動車産業や建設業に欠かせないが、関税によって調達コストが増大すれば、米国内の製造コストも上昇する。短期的には国内鉄鋼メーカーが恩恵を受ける可能性があるものの、長期的には消費者価格の上昇や国際競争力の低下を招きかねない。さらに米国の製造業はグローバル・サプライチェーンに依存しているため、ブラジルとの経済関係悪化は調達先の多様化を余儀なくし、企業の戦略を複雑化させる。

エネルギー分野も影響を受ける。ブラジルはバイオ燃料、特にサトウキビ由来のエタノールの主要輸出国であり、米国の一部州ではガソリン代替燃料として重要な役割を果たしている。関税導入によって輸入コストが上昇すれば、再生可能エネルギーの価格競争力が低下し、結果として化石燃料依存が強まる可能性がある。これはエネルギー価格の上昇だけでなく、環境政策にも逆行する影響を与える。

さらに消費市場への波及も無視できない。ブラジル産コーヒー、果物、砂糖などは米国の食卓に欠かせない輸入品である。関税導入によってこれらの価格が上昇すれば、消費者の購買力が低下し、生活コストの上昇につながる。とりわけ低所得層ほど影響を受けやすく、社会的な不満を増幅させる要因となり得る。

外交・地政学的な観点から見ると、この関税は米国の南米政策全体に緊張をもたらす。ブラジルは南米最大の経済大国であり、地域統合や国際交渉で主導的な立場にある。そのブラジルを標的にした強硬な通商措置はラテンアメリカ諸国の反米感情を刺激し、中国やロシアといった他の大国にとって影響力拡大の好機を与える。すでに中国はブラジルの最大の貿易相手国であり、米国が関税で関係を悪化させれば、ブラジルはさらに中国依存を強めるだろう。その結果、米国は西半球における経済的・外交的な影響力を削がれる可能性がある。

一方で、トランプ政権が関税を課す背景には、国内政治的な計算がある。米国内の鉄鋼業やアルミ産業、農業保護を掲げることでラストベルトや農村部の支持を固める狙いがある。しかし、実際には農業分野の打撃が深刻であり、補助金による救済策が必要となる公算が大きい。これは財政負担を増やし、関税収入以上のコストを発生させる可能性がある。つまり短期的な政治的得点稼ぎのために、長期的な経済効率性が犠牲になりかねない。

また、国際貿易秩序への影響も看過できない。世界貿易機関(WTO)の規定では、一方的な高率関税は正当化が難しく、米国が再び国際規範を無視する姿勢を示せば、通商摩擦はグローバルに拡大する。結果として世界経済の不確実性が高まり、米国企業にとっても投資環境の悪化というブーメラン効果をもたらす。

この50%関税は米国にとって短期的には一部産業の利益を守るが、長期的にはインフレ、サプライチェーンの混乱、外交的孤立、国際競争力の低下といった負の影響が上回る可能性が高い。トランプ政権は国内支持基盤の強化を優先しているが、その代償として米国経済の持続的成長が損なわれるリスクは避けられないだろう。

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