SHARE:

米国とブラジルの関係が悪化した経緯「トランプvsルラ」

2025年における米国(トランプ政権)とブラジル(ルラ政権)の間で高まった緊張は、政治的・外交的・経済的・司法的な多層的対立構造によるものだ。
トランプ米大統領(左)とブラジルのルラ大統領(Getty Images)

1. 緊張のきっかけ・背景

(1) 2025年の外交・貿易危機の発端

ブラジルのルラ(Luiz Inácio Lula da Silva)大統領が2023年1月に大統領再就任後、BRICSや南南協力を重視し、米国依存からの脱却や自立外交を進めたことが背景となる。

一方、2025年1月に第2次トランプ政権が発足。保護主義的政策やBRICSへの対抗姿勢を鮮明にし、特にブラジルとの関係においても強硬姿勢を強めた。

(2) ボルソナロ事件と司法への介入

2022年大統領選後、ボルソナロ(Jair Bolsonaro)前大統領がクーデターを試みた疑いで、司法や軍を巻き込んだ陰謀が捜査され、裁判が進行中である。ボルソナロ被告は反発して強硬姿勢をとっており、現在は裁判を受けている。

トランプ氏はこの裁判を「魔女狩り(witch hunt)」と呼び、ボルソナロ支持を表明。米国側がブラジルの司法プロセスに圧力をかける形となった。

(3) 米国による制裁・関税措置

トランプ政権はまず2025年4月にブラジル製品に10%関税を課し、7月にはさらに50%へと引き上げた。これには「ボルソナロ氏への迫害」への抗議や「米企業や表現の自由の侵害」を理由とした演出も含まれていた。

併せて、ブラジル最高裁判事ジモラエス氏に対し、グローバル・マグニツキー法に基づく制裁措置や資産凍結、米国からのビザ停止等を実施した。


2. 背景と構造的要因

(1) イデオロギー的対立の深化

トランプ氏とボルソナロ氏のポピュリズム/右派的ナショナリズムと、ルラ政権の左派/多国間協調志向との対立構造が背景にある。米国側はBRICS内でのブラジルの存在感強化を警戒し、牽制的手段を取っていると見られる。

(2) 経済的な駆け引き手段としての関税

関税はもともと内政的な保護主義的政策であるが、トランプ政権は政治的な意図を含ませ、ブラジルへの圧力として利用している。特に、米国がブラジルと貿易赤字ではなくむしろ黒字であるにもかかわらず、関税を課した点は批判されている。

(3) 主権侵害としての司法への圧力

米国がブラジルの裁判手続きに介入し、裁判官を制裁対象とした点は、司法独立への侵害としてブラジル内外からの強い反発を招いた。


3. 問題点の整理

  1. 内政干渉の論理矛盾
    ルラ政権はブラジルの主権として司法の独立・法の適正手続きの尊重を訴えるが、米国はそれを「人権侵害」などと主張して干渉した。これは国際法上の主権尊重と自由民主主義の価値観の矛盾を生んでいる。

  2. 経済への悪影響と代替パートナーの模索
    50%もの高関税は農業・畜産などルラ支持層の基盤に打撃を与え、国内経済に不安を与える。一方、ブラジルは中国やBRICSとの関係を強化し、代替市場を模索中で、経済的にも米国から距離を置く方向へ動いている。

  3. 政治ポピュリズム同士の衝突構造
    トランプ氏とボルソナロ氏の信奉者は米国内外に強固な支持基盤を持ち、外交戦略もそれを反映しており、合理的な外交調整を難しくしている。

  4. WTOや国際ルールとの摩擦
    ブラジルはWTOへの提訴を行い、米国の関税措置が保護主義や政治介入であるとの国際的批判を強めている。


4. 結論

総じて、2025年における米国(トランプ政権)とブラジル(ルラ政権)の間で高まった緊張は、政治的・外交的・経済的・司法的な多層的対立構造によるものだ。

トランプ政権は、ボルソナロ氏の裁判やブラジルの司法制度を「不当」として攻撃し、関税と制裁を武器にブラジルへの圧力をかけた。一方、ルラ政権は主権と司法の独立を掲げ、BRICSとの緊密化や経済代替策を模索しつつ、米国の動きを「強引な介入」として国内的な支持を強化する材料としても活用した。

この衝突は、単なる二国間問題に留まらず、BRICSと西側の構図、グローバル・サウスにおける中国・インドとの連携強化など、国際秩序の再編とも結びついている。

今後は、関税措置の解消とWTOなど国際機関を通じた調整、司法への政治介入への批判的議論、そして米・ブラジル間の信頼回復を目指した対話の再構築が望まれる。ただし、両国とも国内の政治的制約やポピュリズムの構造が根強く、単純な解決は難しい。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします