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中東情勢の影響を受けにくいブラジル、バイオ燃料政策で危機回避へ


ブラジルでは数千万台規模の車両がエタノール100%、またはエタノールを約30%混合したガソリンを使用可能で、消費者は価格に応じて燃料を選択できる。
2026年3月27日/ブラジル、サンパウロ市のガソリンスタンド(AP通信)

世界的な原油価格の高騰が続く中、ブラジルは他国とは異なり、その影響を比較的抑えられる独自の立場にある。背景には、数十年にわたり築いてきたバイオ燃料政策、とりわけサトウキビ由来エタノールの広範な利用がある。

中東情勢の緊迫化により原油市場は大きく揺らぎ、多くの国でガソリン価格が急騰している。しかしブラジルでは、同時期の価格上昇は約5%にとどまり、他国に比べて影響は限定的である。これは同国のエネルギー供給構造が、化石燃料に過度に依存していないためである。

最大の特徴はエタノールとガソリンを選択できる「フレックス燃料」体制にある。ブラジルでは数千万台規模の車両がエタノール100%、またはエタノールを約30%混合したガソリンを使用可能で、消費者は価格に応じて燃料を選択できる。この柔軟性が原油価格の変動を直接的に国内価格へ波及させにくい構造を生み出している。

この体制は1970年代のオイルショックを契機に始まった国家政策に由来する。当時、輸入石油への依存度の高さが問題視され、政府はサトウキビ由来エタノールの生産と利用を強力に推進した。その結果、現在ではガソリンに一定割合のエタノールを混合することが制度として定着し、純ガソリンはほぼ流通していない。

さらに、ブラジルは世界有数のエタノール生産国であり、国内で大量の燃料を自給できる点も強みである。サトウキビは同国の気候に適した作物で、効率的かつ低コストで生産できるため、エタノールはガソリンに対して競争力を持つ。 2026年には記録的な生産量が見込まれ、供給面でも安定性が高い。

このような構造により、ブラジルはエネルギー安全保障の面でも優位に立つ。輸入原油への依存が相対的に低いため、国際市場の混乱や地政学的リスクの影響を受けにくい。実際、米イラン戦争によって世界的に供給不安が高まる中でも、深刻な燃料不足には至っていない。

もっとも、課題がないわけではない。特にディーゼル燃料については依然として輸入原油に依存しており、価格は大きく上昇している。今月にはディーゼル価格が20%以上上昇し、政府は補助金などの対応を検討している。 また、エタノール生産は農作物に依存するため、天候や収穫状況によって供給が左右されるリスクもある。

環境面でも議論は続いている。エタノールは化石燃料に比べて温室効果ガス排出が少ないとされる一方、大規模農業による土地利用や食料生産への影響を懸念する声もある。それでも、コストと環境負荷のバランスの観点から、ブラジルのモデルは他国にとって参考事例とみなされている。

実際、インドやメキシコなど複数の国がエタノール混合政策の拡大を進めており、ブラジルの経験はエネルギー政策の一つの指針となっている。 原油価格の不安定化が続く中、再生可能燃料を組み込んだエネルギー戦略の重要性は今後さらに高まるとみられる。

今回の事例は長期的な政策投資と技術開発が、突発的な国際危機に対する耐性を高めることを示している。ブラジルはバイオ燃料という選択肢を持つことで、世界的なエネルギーショックの中でも比較的安定した状況を維持しており、その独自のエネルギー構造が改めて注目されている。

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