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ブラジル、ジェンダー暴力への刑罰強化する刑法改正案成立

この法改正は女性への暴力が異常な勢いで増加し、国内で記録的な数の被害が報告されている中で成立した。
2025年12月7日/ブラジル、リオデジャネイロ、ジェンダーに基づく暴力に反対する集会(AP通信)

ブラジルのルラ(Luiz Inácio Lula da Silva)大統領は9日、性別に基づく暴力の被害者となった女性を守るため、保護措置を強化する刑法改正案に署名した。

この法改正は女性への暴力が異常な勢いで増加し、国内で記録的な数の被害が報告されている中で成立した。直近では、学校職員の女性が同僚の男性に殺害される事件や、元交際相手に車で引きずられ両脚を失う殺人未遂、エレベーター内で暴行を受けた女性の傷が動画で拡散されるなど、残虐性の高い事件が相次ぎ、国民の怒りと抗議が高まっていた。

こうした事件を受けて、最大都市サンパウロやリオデジャネイロなどで大規模な抗議デモも行われた。

新法では裁判所が被害者保護のために「銃の所持禁止または制限」「加害者の住居からの退去命令」「被害者との接触禁止命令」といった措置を認める。加えて、加害者には足首モニターの着用が義務付けられ、被害者は加害者が近づいた際に警告を受け取ることができる。

さらに、児童(14歳以下)への強姦罪など性犯罪に対する刑罰も引き上げられた。児童強姦の最高刑は従来の15年から18年に、児童への強姦かつ殺害では20〜40年(従来は12〜30年)となる。

この法案は中道右派の進歩党(PP)が起草し、11月に上院で可決されていた。

被害者支援団体やフェミニスト運動の代表者たちは今回の法改正を歓迎する一方で、「法整備だけでは不十分だ」と指摘している。彼女たちは性教育の充実、公的医療・福祉体制の強化、司法関係者や医療・福祉関係者への専門研修など、予防と支援のための実効ある予算配分を求めている。

一方で、専門家の中には「厳罰化や強制モニタリングは一定の抑止効果が見込まれるが、根本的な問題である性差別やミソジニー、構造的なジェンダー不平等への対処なくして、暴力の連鎖を止めることは難しい」との見方もある。

ブラジルでは過去数年、女性に対する性暴力やフェミサイド(女性であることを理由とした殺害)が増加傾向にあり、2024年には1492件のフェミサイドが報告された。これは2015年にフェミサイドを犯罪として明文化して以来、最多の被害件数であった。

今回の新法施行は被害者の安全を確保するための重要な一歩と評価されている。しかし同時に、法整備だけでは不十分であり、社会全体での意識改革や支援体制の強化、予防教育の充実が不可欠であるという声があがっている。今後、これらの制度がどのように機能するか、被害の実態と照らしながら注視されることになるだろう。

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