左翼ゲリラが警察署襲撃、1人死亡、4人負傷 コロンビア
コロンビア内戦は20世紀半ばから21世紀にかけて続くラテンアメリカ最長級の武力紛争であり、その起源は政治的分裂と社会的格差に深く根ざしている。
から分離した左翼ゲリラFARC-EPの戦闘員(Getty-Images).jpg)
コロンビア南西部カウカ州で左翼ゲリラとみられる武装集団が警察署を襲撃し、警察官1人が死亡、4人が負傷した。当局が14日、明らかにした。
軍はX(旧ツイッター)に声明を投稿。コロンビア革命軍(FARC)から分離した左翼ゲリラによるテロ攻撃とみられ、秩序回復のため、カウカ州に部隊を派遣していると書いた。
この地域では2016年の和平合意を受け入れないFARCの分離組織「FARC-EMC」「FARC-EP」や同国最大の悪名高い麻薬カルテル「ガルフ・クラン(クラン・デル・ゴルフォ、CDG)」などが活動している。
両組織はペトロ政権との和平協議を拒否し、主に農村部で活動を活発化させている。
カウカ州では8月下旬にも同様の襲撃事件が発生し、警察官3人が負傷した。
コロンビア内戦の犠牲者は45万人以上と推定されており、その大半が1985年~2018年の戦闘で死亡したとされる。
コロンビア内戦は20世紀半ばから21世紀にかけて続くラテンアメリカ最長級の武力紛争であり、その起源は政治的分裂と社会的格差に深く根ざしている。内戦の直接的な発端は1964年に結成された左翼ゲリラ組織FARCや「民族解放軍(ELN)」の武装蜂起にあるが、その背景には1940年代後半の「ラ・ビオレンシア」と呼ばれる自由党と保守党の間の激しい内戦が存在していた。ラ・ビオレンシアで数十万人規模の死者が出た後も、農村部における土地格差や貧困、政治的排除は解消されず、武装闘争の土壌が残されていた。
FARCやELNはマルクス主義の思想を掲げ、農村部の土地改革や社会的平等を訴えた。しかし国家による弾圧と経済的孤立の中で、彼らは資金調達のために麻薬取引、誘拐、恐喝といった犯罪活動に関与するようになった。とりわけ1980年代以降、コカ栽培と麻薬密輸が紛争経済の中心を占め、ゲリラ勢力だけでなく、麻薬カルテルや右派の民兵組織(自警団・準軍事組織)も台頭した。右派民兵は地主や企業の利益を守るためにゲリラに対抗する存在として組織され、しばしば国家の治安部隊と連携しながら住民への虐殺や強制移住を繰り返した。そのため内戦は単なる国家とゲリラの戦いではなく、多数の武装主体が入り乱れる複雑な構造を持つものとなった。
1990年代、内戦は特に激化した時期を迎える。FARCは数万人規模にまで拡大し、地方の広大な地域を実効支配下に置いた。一方で政府も米国からの軍事支援を受け、「コロンビア・プラン」と呼ばれる対ゲリラ・対麻薬政策を推進した。米国の支援は軍事訓練や武器供与に加え、コカ畑の空中散布除草作戦などにも及び、農村住民に大きな被害を与えた。こうした状況は民間人の犠牲を拡大させ、数百万人規模の国内避難民を生み出した。国際社会はコロンビアを人権侵害の深刻な国とみなし、国連も人道支援や和平仲介に関与するようになった。
和平の試みも何度か行われた。1980年代にはFARCが合法政党「愛国同盟(UP)」を結成したが、数千人にのぼる党員や支持者が右派勢力によって暗殺され、政治参加の道は閉ざされた。2000年代に入っても、ウリベ政権下で軍事的圧力が強まり、FARCの指導者が次々に殺害される一方、ELNや民兵組織との交渉も断続的に試みられた。とりわけ2010年代、サントス大統領の下でキューバやノルウェーの仲介によりFARCとの和平交渉が進展し、2016年には歴史的な和平合意が結ばれた。この合意によってFARCは武装解除し、政党として合法的に活動する道を歩み始めた。
しかし、内戦の完全な終結には至っていない。和平合意後も、一部のFARC残党が「再武装派」として活動を続け、ELNや新たな犯罪組織が麻薬取引や違法採掘をめぐって争っている。また、和平合意の履行は不十分で、農村部の土地改革や社会保障政策が遅れていることが再び暴力を呼び戻している。人権活動家や地域指導者の暗殺も後を絶たず、国家の統治が及ばない「無法地帯」が依然として存在しているのが現実である。
コロンビア内戦は単なるイデオロギー対立にとどまらず、土地問題、麻薬経済、国家と社会の関係性の脆弱さといった構造的要因が複雑に絡み合った紛争である。その結果、半世紀以上にわたり数十万人の死者、数百万人の難民・避難民を生み出し、国の発展を阻害してきた。現在も完全な平和には達していないが、2016年合意は長期にわたる暴力の歴史を転換させる大きな一歩であり、コロンビア社会が「戦争の世紀」から抜け出すための基盤を築いたと言える。課題は依然として山積しているものの、国家と市民社会が暴力ではなく民主的なプロセスを通じて問題を解決していけるかどうかが、今後の平和の鍵となる。