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アルゼンチン「鉄道民営化の夢」実現には時間と資金が必要

現状、アルゼンチンでは貨物輸送のうち鉄道が占める割合はわずか5%にとどまり、これは近隣や先進国と比べて著しく低い。
アルゼンチンの貨物列車(ロイター通信)

アルゼンチン政府は老朽化が進み輸送効率が低迷している国内鉄道網を近代化し、民営化を進める大胆な構想を打ち出している。最初の対象となるのは、国内最大の貨物鉄道網であるベルグラーノ・カルガス(Belgrano Cargas)で、早ければ2026年前半にも入札が開始される見込みだ。

現状、アルゼンチンでは貨物輸送のうち鉄道が占める割合はわずか5%にとどまり、これは近隣や先進国と比べて著しく低い。たとえばブラジルでは約20%、米国やカナダでは40%以上となっている。

また、鉄道による貨物輸送量は1970年代と比べても減少しており、同時期に農産物生産量は6倍に増加していたにもかかわらず、鉄道網は劣化と管理不足で機能不全に陥っていた。脱線や積荷の強奪などトラブルも多発していた。

この鉄道近代化・民営化構想の狙いは、主に穀物や鉱産資源の輸出拡大である。改修・再稼働が進めば、農産物(大豆やトウモロコシなど)や銅・リチウムのような鉱産資源を遠隔地から港に運ぶ輸送コストを大きく抑えることが可能になる。

特に、北部・西部の農地から主要輸出港のある都市までの輸送が効率化されれば、全輸出額を今後7年で年間1000億ドル規模まで増やすという政府の目標にも貢献するとみられている。

入札にはすでに国内外の複数企業が関心を示しており、有力な候補としてはメキシコの大手鉄道事業者が挙げられている。関係者によると、同社が入札に勝利すれば約30億ドルを投じてネットワークを再構築する可能性があるという。農産物輸出大手や鉱山関連企業、さらには鉱物開発企業まで参加を検討しており、産業界からの期待が集まっている。

ただし、民営化と近代化を現実のものとするには、膨大な投資と時間が必要である。現在稼働中の路線は約8000キロメートルだが、さらに1万1000キロにおよぶ休止線の再整備・運営には相当なコストがかかる見込みで、関係者は少なくとも8億ドル規模の資金注入が必要だと指摘する。

また、鉄道網の機能低下が長年放置されてきた背景には、経済危機や財政難の影響もある。これらを克服し、民営化による持続的な運営とインフラ維持を実現するためには、入札後の運営管理体制、途上地域へのアクセス、貨物輸送量の確保、そして既存の道路輸送との競争という多くの課題が残る。

アルゼンチン政府にとって、今回の鉄道改革は単なるインフラ整備ではなく、経済立て直しと国際競争力強化を図る鍵だ。だが、その実現には時間と資金、そして民間企業と政府の強いコミットメントが不可欠であり、「鉄道民営化の夢」が実を結ぶまでには長い道のりが待ち受けている。

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