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アルゼンチン議会、氷河保護を緩和する法案可決


今回の法改正の最大の特徴は、従来の氷河保護の枠組みを大きく見直した点にある。
2026年4月8日/アルゼンチン、首都ブエノスアイレス、ミレイ政権に抗議するデモ(AP通信)

アルゼンチン議会が9日、氷河保護の規制を緩和する法案を賛成多数で可決し、環境保護団体や野党から強い反発を招いている。法案はリバタリアンのミレイ(Javier Milei)大統領が主導したもので、鉱業投資の拡大を狙った政策の一環と位置付けられている。

法案は下院で賛成137ー反対111(棄権3)で可決、上院も承認済みである。今後、ミレイ氏の署名を経て成立する見通しだ。政府はこの改革により、今後10年間で300億ドル以上の鉱業投資が呼び込まれる可能性があると説明している。特に銅や金、銀といった資源開発が中心となる見込みだ。

今回の法改正の最大の特徴は、従来の氷河保護の枠組みを大きく見直した点にある。2010年に制定された旧法では、氷河および周辺の永久凍土地域での鉱業活動は原則禁止されていた。しかし新法では、「特定の水文学的機能を持つ氷河」のみ保護対象とし、その判断を各州政府に委ねる仕組みに変更した。これにより、従来は開発が禁じられていた地域でも採掘が可能となる余地が広がる。

政府側はこの改革を経済成長と雇用創出のために不可欠な措置だと強調している。厳格すぎる規制がこれまで大規模投資を阻害してきたとし、柔軟な制度への転換によって資源開発を促進できると主張する。また、環境保護と経済開発の両立は可能であるとの立場を示している。

一方で、環境団体や科学者からは強い懸念が表明されている。国際環境団体グリーンピースなどは、今回の法改正が水資源の安全性や脆弱な生態系に重大な影響を及ぼすと警告し、司法の場で争う方針を示した。氷河は乾燥地域における重要な水源であり、その保護は国家の水安全保障に直結するとの指摘もある。

実際、アルゼンチン南部には約1万7000の氷河が存在し、総面積は8000平方キロメートル以上に及ぶ。これらは河川の流量を維持する役割を担い、気候変動の影響で既に後退が進んでいる。そのため、保護の緩和は水不足のリスクをさらに高める可能性があると専門家は指摘する。

また、法案の審議過程にも批判が集まっている。野党は十分な議論や市民参加が欠如していたと主張し、憲法違反の可能性にも言及している。実際、議会周辺では抗議デモが行われ、「水は金より重要だ」といったスローガンが掲げられるなど、社会的対立も顕在化している。

今回の法改正はミレイ政権が進める規制緩和と市場重視の改革路線を象徴するものといえる。経済再建を優先する姿勢は投資家から一定の評価を受ける一方で、環境保護や持続可能性とのバランスを巡る議論は一層激化している。

氷河という不可逆的な自然資源をめぐる今回の決定は単なる国内政策にとどまらず、気候変動時代における資源開発の在り方を問う事例としても注目される。今後、法的闘争や社会的議論の行方が、この政策の実効性と影響を左右することになりそうだ。

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