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「鍵はどこ?」物を置いた場所を覚えるコツ

日常の失くし物を減らすには、記憶と注意の関係を理解し、意識的な符号化や習慣化、そして適切なテクニックの活用が不可欠である。
カギを探す女性(Getty Images)

日常生活で「鍵はどこに置いた?」と困ることは誰にでもある。特に冬場はコートのポケットにスカーフや手袋を入れたままにしがちで、鍵やスマホ、財布などの置き忘れが増える傾向があるという。こうした物忘れは単なる記憶力の低下ではなく、注意と記憶の接点での認知的なズレが原因の場合が多いと専門家は指摘する。

ワシントン大学心理・脳科学名誉教授のマーク・マクダニエル(Mark A. McDaniel)氏は、長年記憶と学習を研究してきたにもかかわらず、最近レストランの椅子の下に帽子を置き忘れた経験を明かし、「忘れないと思っていても、実際には忘れてしまうことがある」と話す。

ハーバード大学の心理学教授であるダニエル・L・シャクター(Daniel L. Schacter)氏は、物を失くすのは単なる記憶の悪さではなく、記憶の「符号化(エンコーディング)」の段階で注意が散漫になることが主な要因だと説明する。記憶は脳内で「符号化」「保管」「想起」という3つのプロセスを経るが、物を置く瞬間に他のことを考えていると、その行為が十分に符号化されず、後で思い出しにくくなるという。

こうした失くし物を減らすための実践的な方法として、専門家はまず、日常的に使う物について「定位置」を決めることを勧める。たとえば鍵や財布、スマホは毎回同じ場所に置く習慣をつけることで、記憶に頼らずとも「そこにあるはずだ」という自動的な行動が促される。シャクター氏自身は、読書用眼鏡をいつも台所の特定の場所に置き、ゴルフに行く際は携帯電話をゴルフバッグの同じポケットに入れるといった工夫をしている。こうした「構造化された行動パターン」は習慣化すればかなりの頻度で効果があるという。

一方で、普段あまり使わない物、たとえば帽子のようなものについては別の対策が有効だとされる。マクダニエル氏は物を置くときにその位置を「声に出して言う」ことを勧める。言葉にすることで注意が向きやすくなり、記憶の符号化が強化されるうえ、音声情報が追加されることで脳内の記憶の結びつきが豊かになると説明する。物を置いた場所とそれを言葉で表現する行為を組み合わせることで、後から思い出す際の手がかりが増えるというわけだ。

さらに、物忘れ対策としては、記憶競技で使われるような「記憶の宮殿」のようなイメージ化法もある。これは物をよく知っている場所やルートに結びつけて視覚的に位置を思い浮かべる方法で、数字やリストを覚える記憶大会でも活用されている。こうした多様な情報を結びつける「詳述(エラボレーション)」が記憶改善に役立つとされる。

ただし、ここ数年で物忘れが顕著に増え、日常生活に支障を来すような場合は、専門の医師に相談することも検討すべきだとシャクター氏は指摘する。単なる物忘れと認知機能全般の低下を区別することは重要であり、医療的な評価を受けることで適切な対応が可能になる。

このように、日常の失くし物を減らすには、記憶と注意の関係を理解し、意識的な符号化や習慣化、そして適切なテクニックの活用が不可欠である。忘れ物への対策は単なる記憶術ではなく、日々の行動の工夫によって十分に改善可能だ。

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