◎この訪問はつい最近までは考えられなかった。
米国のバイデン(Joe Biden)大統領は3年前、中米エルサルバドルのブケレ(Nayib Bukele)大統領の面会要請を断った。
それから3年、米政府は「世界で最もクールな独裁者」を自負するブケレ氏への方針を180度転換させ、首都サンサルバドルに高官らを派遣した。
サンサルバドルでは1日、大統領就任式が行われ、ブケレ氏の再任を祝う市民数十万人が集まった。
就任式には中南米の国家元首や外相らが出席。米国からはマヨルカス(Alejandro Mayorkas)国土安全保障長官を団長とする代表団が出席した。
この訪問はつい最近までは考えられなかった。
ブケレ氏の米国人顧問であり、政府に代わってロビー活動を行っているメルロ(Damian Merlo)氏はAP通信の取材に対し、「米国はエルサルバドルの政策がうまく機能し、米国が抱える問題に良い影響を与えていることに気づいた」と語った。
またメルロ氏は「米国が移民問題の根本に対処したいと考える中、ブケレ大統領は本気でそれを実行し、大きな成果を上げた」と強調した。
ブケレ氏は2022年3月、ギャング関連の殺人事件が多発したことを受け、非常事態を宣言。刑法を改正するなどしてギャング掃討作戦を本格化させた。
それ以降に逮捕されたギャングまたはギャングと疑われる市民は8万人近くに達した。そのうち約7000人は証拠不十分で釈放されている。
非常事態令により、警察の権限は大幅に強化され、結社の自由や弁護人を選任する権利なども制限。警察は令状なしで家宅捜索を行ったり被疑者を拘束できるようになった。
また刑法改正により、ギャングに所属し逮捕された幹部の懲役刑は6年以上9年以下から「40年以上45年以下」、その他の構成員は3年以上5年以下から「20年以上30年以下」に引き上げられた。
国会はこの非常事態令を20回以上延長している。
この凄まじい掃討作戦により、国内のギャングはほぼ壊滅し、エルサルバドルは世界で最も危険な国のひとつから、中米で最も安全な国に豹変した。
今年2月の大統領選で得票率85%を獲得した人気者のブケレ氏は就任演説で、「我々は恐怖を克服し、今日、世界で最も安全な国に、真に自由な国家になったのだ」と絶叫した。
またブケレ氏はこう強調した。「私はこの国の平和と安全保障を確立できると確信していました」
最新の世論調査によると、回答者の90%以上がブケレ氏のギャング掃討作戦を支持。与党・新思想党(NIの支持率は90%に迫る勢いである。
治安の改善により、米国への移住を目指すエルサルバドル移民はこの3年で60%以上減少。他の中南米諸国とは対照的である。
エルサルバドルで昨年確認された殺人事件は214件。2015年に記録した6656件の30分の1にまで減少した。
警察によると、今年1~4月末の殺人件数は昨年同時期を下回っている。
エルサルバドルの憲法は同一人物が2期連続で大統領を務めることを禁じているが、1期(5年)間隔を空ければ立候補できる。しかし、高等選挙裁判所は昨年、ブケレ氏の出馬を認めた。