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米裁判所、トランプ政権のTPS打ち切りを差し止め、移民追放に暗雲

TPSは出身国で自然災害や武力紛争などが発生した場合に、米国内にいる対象者に対して強制送還を免除し、就労許可を与える連邦プログラムである。
ニカラグアとホンジュラスの国境付近、帰国を希望する移民(ロイター通信)

米国の連邦裁判所は25年12月31日、トランプ政権によるホンジュラス、ネパール及びニカラグア出身の移民約8万9000人に対する一時保護資格(TPS)の打ち切りを差し止める判断を下した。サンフランシスコ地裁は政府側の措置が人種的敵意に基づいているとの主張に合理性があると述べ、移民保護の終了処分について適切な審理が尽くされていないと判断した。

TPSは出身国で自然災害や武力紛争などが発生した場合に、米国内にいる対象者に対して強制送還を免除し、就労許可を与える連邦プログラムである。国土安全保障長官には特定国の指定や延長・終了を判断する権限があるが、判事は今回の決定が各国の帰還可能な条件を十分に検討したものではないと指摘した。

判決では、トランプ(Donald Trump)大統領やノーム(Kristi Noem)国土安全保障長官が移民を犯罪者や社会の負担とみなす発言を行ってきたことが引用され、これらの言動が対象となる移民に対するステレオタイプを助長し、差別的な意図を示していると判断された。また判事はこうした背景が政府のTPS撤回決定に影響を与えた可能性があるとして、終局的な審理が行われるまでTPS解除の効力を停止する仮処分を認めた。

この判決によって、ホンジュラスの約7万2000人、ネパールの約1万3000人及びニカラグアの約4000人の合計約8万9000人が、現状の保護措置と就労資格を維持することが可能となる見通しである。これらの移民は米国内で長年生活し、コミュニティに溶け込み、教育や経済活動に従事してきた者も多い。

トランプ政権はこれまで、合法・非合法問わず移民政策の厳格化を主要な政策課題として掲げ、TPSの撤回を含む一連の措置を進めてきた。政府側はTPSの継続が米国の利益に反するとして、対象国の状況が改善したとの見解からこれを終了する方針を示していた。しかし、この裁判所判断はそうした主張に対して異議を唱えるもので、司法審査の重要性を改めて浮き彫りにした。

一方、最高裁判所は10月、ベネズエラ出身の約30万人に対するTPS終了を認める判断を示しており、移民保護を巡る法的論争は連邦裁判所内でも意見が分かれている。ボストンの裁判所では南スーダンの移民に対する保護終了を差し止める別の判断も出ており、同様の訴訟が各地で続いている。

今回の差し止めはトランプ政権の移民政策に対する法的な制約を示すとともに、米国内における移民保護と国家安全保障、司法審査の役割をめぐる議論を一段と活性化させるものとみられている。TPSをめぐる今後の訴訟と最終判断が国内外の注目を集めることになるだろう。

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