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トランプ氏、極左勢力「アンティファ」をテロ組織に指定へ

アンティファは「反ファシズム」という理念のもとに存在し、極右や差別に立ち向かう役割を担ってきた。
2025年9月17日/イギリス、ロンドン、トランプ米大統領(AP通信)

トランプ(Donald Trump)大統領は18日、極左勢力「アンティファ(反ファシスト運動の略称)」を「主要テロ組織」に指定すると表明した。

アンティファは「アンチ・ファシスト(Anti-Fascist)」の略称であり、極右やネオナチ、ファシスト的潮流に対抗する急進左派の運動体を指す。国家や政党に属さない分散型の運動であり、特定の指導部や組織的指揮系統を持たないのが特徴である。そのため「団体」というよりは思想的・実践的なネットワークの集合体として理解するのが適切である。

トランプ氏はアンティファをどのようにテロ組織に指定するのかは説明しておらず、ホワイトハウスもコメントを出していない。

イギリスを公式訪問中のトランプ氏は18日の現地時間午前1時30分前にソーシャルメディアに声明を投稿。アンティファを「病的な、危険な、過激な左派」と呼んだ。

またトランプ氏はアンティファの資金提供者を調査するよう「強く勧告する」とも述べた。

第1次トランプ政権のFBI長官は2020年の証言で、「アンティファは組織ではなくイデオロギーであり、連邦政府がテロ組織に指定する際に通常必要とされる階層構造を欠いている」と述べていた。

トランプ氏の投稿を受け、ルイジアナ州選出のキャシディ(Bill Cassidy、共和党)上院議員はこの発表を称賛。「アンティファは不満を悪用し、暴力と無政府状態を助長し、万人のための正義に反する活動を行ってきた。大統領がアンティファをテロリストと指定し、その破壊的な役割を認識したのは正しい判断だ」と指摘した。

アンティファの歴史

アンティファの源流は1920〜30年代のヨーロッパに遡る。ナチスの台頭に直面したドイツやイタリアで、共産主義者や社会主義者がファシズムに対抗するための統一戦線を形成し、その象徴として「反ファシスト行動」が結成された。彼らは街頭での直接行動や労働者組織を通じてナチスの進出を阻止しようと試みたが、最終的にファシズムに押し潰された。この歴史的経験が「ファシズムには議会的手段ではなく、実力行使で対抗すべきだ」という思想を生み、戦後も形を変えて受け継がれた。

冷戦期の西ドイツやイギリスでは、ネオナチや極右政党に抗する運動としてアンティファ的グループが再び活動を展開した。特に1980年代以降、パンク文化やアナーキスト運動と結びつき、サブカルチャーとしても広がった。米国では反人種差別運動や反警察暴力運動とリンクし、21世紀に入ってからはグローバル化や移民問題をめぐる右派ポピュリズムの台頭に対する「左派急進勢力」として可視化された。


思想的基盤

アンティファの根本思想は「反ファシズム」である。ただし彼らの定義するファシズムは非常に広範で、伝統的な極右思想やネオナチだけでなく、人種差別、移民排斥、国家主義、資本主義的抑圧構造なども含まれる。そのため、アンティファは単なる反ナチ運動ではなく、反資本主義、反権威主義、反国家主義を包含する急進左派の枠組みとして機能している。

多くのアンティファ活動家はアナーキズム、マルクス主義、あるいはオートノミズムに影響を受けており、「国家権力や制度そのものが抑圧の源泉」とみなす傾向がある。このため、彼らにとって「民主的手続きによる政治参加」よりも「街頭での直接行動」こそが正統な政治的表現手段となる。


組織形態

アンティファは国家単位で統一された組織を持たず、水平的ネットワークによってゆるやかに結びついた「運動の生態系」として存在する。ロゴやシンボル(赤と黒の旗を二重円で囲ったものなど)は共通して用いられるが、それはあくまで「ブランド」としての統一感を与えるに過ぎない。

各地のアンティファ・グループは地域ごとに独立しており、SNSや暗号化通信を介して情報交換を行う。資金源は寄付やクラウドファンディング、時には音楽イベントなどの文化活動によって得られる。指導者不在のため取り締まりが難しく、国家から見ると「実体をつかみづらい運動」となる。


活動実態

アンティファの活動は国や地域によって異なるが、共通して次の特徴が見られる。

  1. 街頭デモ・カウンタープロテスト
    極右団体がデモを行う際、アンティファは対抗デモを組織し、時に物理的衝突を伴う。特にドイツではネオナチ集会に対して数千人規模のカウンターデモを展開することがある。

  2. ダイレクト・アクション
    単なるデモにとどまらず、警察や公共施設に対する破壊活動、企業や極右活動家への襲撃が発生することもある。米国では2017年のシャーロッツビル事件以降、アンティファが極右勢力と激突し、暴力的映像が報道された。

  3. オンライン活動
    SNSを利用した極右活動家の身元晒し(ドクシング)、プロパガンダの拡散も重要な活動である。近年ではハッキング集団と連携する事例も報告されている。

  4. 文化・教育活動
    単に暴力的側面だけでなく、反差別教育や労働運動、移民支援など市民活動を展開するグループもある。音楽やアートを通じて「反ファシスト文化」を醸成することも特徴的である。


各国での評価

米国

トランプ政権下でアンティファはしばしば「国内テロ組織」と非難された。2020年のブラック・ライヴズ・マター(BLM)抗議運動で一部過激派が暴力に関与したとされ、共和党系メディアは「秩序を乱す急進左派」として強調した。ただしFBIはアンティファを単一の組織としては認定しておらず、緩やかな運動体として扱っている。

ドイツ

ネオナチや極右政党の活動が活発なため、アンティファは一定の支持を受けている。しかし一方で、警察や政府施設に対する攻撃が相次ぎ、治安当局は「極左過激派」として監視対象にしている。ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)は極左暴力の多くにアンティファ系が関与していると報告している。

イギリス・北欧

イギリスやスウェーデンでも反ファシスト運動は存在するが、米独ほどの影響力は持たない。主に移民排斥デモへの対抗活動として機能している。


問題点と批判

アンティファは「ファシズムと闘う」という正義の理念を掲げるが、その方法論には多くの問題が指摘される。

  1. 暴力の正当化
    議会制民主主義を経由せず、暴力や破壊活動を「正義の行為」として認める傾向があるため、社会秩序を破壊する危険性が高い。

  2. 敵の過剰な拡張
    彼らが「ファシスト」とみなす対象は広範で、保守派政治家や単なるナショナリストまでも敵視することがある。この結果、対話可能な相手との間にも対立を深め、社会の分断を助長する。

  3. 透明性の欠如
    指導部不在の水平ネットワークゆえに責任の所在が不明確であり、暴力行為が発生しても組織としての説明責任が果たされない。

  4. 社会的評価の二極化
    一部では「人種差別やネオナチに対抗する必要悪」とみなされる一方、多くの市民にとっては「過激で危険な集団」と映り、左派全体のイメージを悪化させている。


結論

アンティファは「反ファシズム」という理念のもとに存在し、極右や差別に立ち向かう役割を担ってきた。しかしその実態は組織化された政治団体ではなく、緩やかなネットワークを通じた急進的運動体である。理念的には正義性を帯びるが、実際には暴力や社会不安を伴い、民主的制度を軽視する姿勢が強いため、国家や市民社会からはしばしば警戒の目を向けられている。

総じてアンティファは「極左過激派」と「反差別運動」の両面を持ち合わせた存在であり、その評価は文脈によって大きく揺れる。今後も極右勢力の台頭や社会的分断が続く限り、アンティファ的運動は消滅することなく、むしろ対抗運動として再生産されていくと考えられる。

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